本研究では,漢方薬「六君子湯」の短期投与が血中のグレリン濃度を上昇させ,視床下部NPYの発現を介して摂食を亢進するメカニズムが,カロリー制限(CR)で見られる現象と類似している点に着目し,六君子湯(RKT)のカロリー制限模倣薬としての可能性を検証した。これまでの実験で、長期にRKTを与えるとグレリンが上昇し、酸化ストレス耐性の増強も示唆されたことから、RKT投与は一部ではあるがCRのポジティブな効果を模倣することが期待された。今年度は実際に老齢マウスへのRKT長期投与が寿命に与える影響を検証した。また、NPYが六君子湯のそれらの効果に寄与するかどうか、NPYノックアウトマウスを用いて検証した。オスの16-18ヶ月齢のNPYノックアウトマウスとその野生型マウスを、野生型通常食群(WT-CT)、野生型RKT群(WT-RKT)、NPY-KO通常食群(KO-CT)、NPY-KO RKT群(KO-RKT)に分けて、寿命を観察した。その結果、WT-RKT群の寿命は対照群(WT-CT)と有意差がなかった。活性型グレリン濃度は、投与開始後12週で有意に増加したため、六君子湯の投与効果はあったと考えられる。また、KO-RKT群の寿命も、対照群と比較して統計的有意差はなかった。以上のことから、六君子湯の長期投与は、CRのように寿命を延長することができないことが示された。しかしながら、興味深いことに投与後12週目のRKT群では脂肪重量が有意に減少していた。これは、初年度の若齢マウスへの六君子湯投与が脂肪重量を増加させる結果と相反する。このことは、六君子湯は年齢によってその生理的反応が異なること、特に脂肪組織に影響を与えることを示している。さらに、中・老齢期からの投与は脂肪重量を減少させることから、肥満解消の選択肢として期待できる。今後は、投与量や作用機序についてより詳細な検討が必要である。
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