本年度は、mTOR複合体1欠損の誘導が可能な急性骨髄性白血病モデルを用いた解析を中心に、mTOR複合体1による白血病幹細胞制御のメカニズムについて実験を行った。まずMLL-AF9融合遺伝子を導入して樹立した急性骨髄性白血病モデルにおいてmTORC複合体1に必須のサブユニットであるRaptorを欠損させた結果、有意に白血病マウスの生存期間が延長した。このことから、遺伝学的なmTOR複合体1の特異的な欠損は、抗腫瘍効果を示すことを明らかにした。また、Raptor欠損誘導下において、骨髄中に未分化様の表面抗原を呈する細胞集団が増加していることを見出したことから、白血病再発能力を評価するため、限界希釈細胞移植アッセイを行ったところ、この細胞集団の白血病再発能力は低下していることを確認した。一方で、白血病を発症しなかったレシピエントマウスにおいてもRaptor欠損AML細胞が残存していることが明らかとなり、表面抗原の特徴から、Raptor欠損AML細胞が未分化な状態で、長期的に生体内において維持されうることを見出した。さらに生存していたRaptor欠損AML細胞にRaptorを再導入したところ、元のAML細胞と同様に非常に悪性度の高い白血病を再発することが確認された。 以上の結果から、遺伝学的なmTORC1抑制条件において生存するAML細胞は、白血病幹細胞集団であることが明らかとなった。Raptor欠損下において、白血病幹細胞集団の増加が認められたことから、遺伝学的にもmTORC複合体1の抑制は幹細胞、特に急性骨髄性白血病幹細胞の自己複製を促すことが示唆された。今後この維持メカニズムを解明することが、生理的条件下での幹細胞維持を理解し、白血病を根治するにあたって重要であると考えられる。
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