研究開始当初の背景我が国における糖尿病、高血圧、高コレステロール血症の罹患率の急激な増加に伴い、今後は虚血性心筋症患者の増加が懸念される。本疾患は、一旦うっ血性心不全に陥ると、極めて予後不良である。虚血性心筋症に対する左室形成術も行われているが、その長期成績は未だ明らかではない。心臓移植が伸び悩んでいる現状においては、より有効な治療の確立が急務である。新たな治療法として期待されているものに、幹細胞移植がある。当科においても以前、家畜ブタを用いて虚血領域へ骨髄由来造血幹細胞を注入する実験を行った経緯がある(平成14-15年基盤研究B ;慢性虚血心筋における骨髄細胞移植療法の展開と臨床への応用)。この時は他の多くの研究報告と同様、虚血領域での血管新生促進が確認されたものの、明らかな心筋細胞再生は得られなかった。世界的には2002年以降、いくつかの骨髄由来幹細胞移植に関する臨床試験結果が報告されている。これらの臨床試験の結果を統合すると、骨髄由来幹細胞移植による心機能改善効果は非常に僅かなものであり、移植された幹細胞の明らかな心筋細胞への分化はやはり確認されなかった。僅かな心機能改善効果は骨髄由来幹細胞からのサイトカイン分泌による、血管新生や心筋幹細胞分化の促進、炎症反応や瘢痕形成の抑制などの結果と考えられている。
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