正常な乳歯の生理的歯根吸収は、後継永久歯の萌出時期と密接に関連して破骨細胞が選択的に乳歯歯根を吸収することで進行し、その歯根吸収の進行程度は厳密に制御されている。しかし、乳歯では重篤なカリエスや不適充填物が原因によって起こされた根尖病巣あるいは外傷による脱臼など様々な理由によって、進行性の非生理的な歯根吸収を引き起こすことがしばしば認められる。このような非生理的な歯根吸収においてはどの様なメカニズムが働いて、破骨細胞が活性化し歯根吸収を起こしているのか、未だ明らかになっていない。そこで本研究は、非生理的な乳歯歯根吸収を念頭において、T細胞の挙動に焦点を絞り、骨免疫担学の観点から破骨細胞の活性と乳歯歯根吸収の関係について解析を行った。 破骨細胞の分化にT細胞が関与していることを確認するために、マウスマクロファージ様細胞RAW264.7細胞をsRANKL刺激により破骨細胞に誘導し、誘導中のRAW264.7細胞とC3H/HeJマウスの胸腺から分離したTreg細胞との共存培養を行った。培養6日後にTRAP染色を行い、誘導された破骨細胞数を定量した。Treg細胞を作用させた共存培養群における誘導された破骨細胞数は、RAW264.7細胞単独培養群と比較し有意に減少していた。次に、共存培養条件下において、RAW264.7細胞とTreg細胞とをインサートメンブレンで隔離し細胞同士の接触を防いだところ、誘導された破骨細胞の数はRAW264.7細胞単独培養群と比較し有意差はなかった。また、培養後に回収したコンディションメディウム中のオステオプテグリン量を測定したところ、RAW264.7細胞単独培養群および共存培養群ともに検出されなかった。以上の結果から、Treg細胞は分化中のRAW264.7細胞に直接作用し、破骨細胞への分化を抑制していることが示唆された。
|