研究概要 |
2つの物体を時空間的に離れた位置に交互に提示する場合,運動軌道上には何ら物理的入力が存在しないにも関わらず,物体間に滑らかな動きが物体間に知覚される。本研究の目的は,この仮現運動場面において運動軌道上に内的に形成される運動物体表象が,物理的な入力の知覚意識を消失させることを新たに示し,この現象を足がかりに脳内にのみ存在する知覚表象の特性を明らかにすることである。 前年度の研究成果として,仮現運動軌道上では,脳内に生成される仮現運動物体の知覚表象が,実際に存在する物体と同じ様な振る舞いで,他の物体の視覚的・知覚意識を消失させるマスキング現象を生起させることを明らかにした。今年度は,仮現運動物体と共に提示される一過的な聴覚刺激によって,知覚意識の消失現象が変容するのかを検証した。その結果,聴覚刺激を提示した条件では,提示しない条件に比べ,運動軌道上に提示される他の物体の知覚意識が消失しやすくなることが分かった。さらに,仮現運動物体間で付随する聴覚刺激の周波数特性が一致している場合には,一致しない場合よりもマスキング効果がより顕著に生じることも分かった。さらに,聴覚刺激によって,仮現運動物体と運動軌道上に提示される物体との間に特徴情報(方位情報)の違いがある場面においても,知覚意識の消失現象が頑健に生じることも示された。 以上の知見から,聴覚刺激によって知覚表象を導く仮現物体が知覚的に増強され,それと共に物体知覚表象もまた増強されること,さらに,知覚表象の増強に伴い他の物理的入力に対する知覚意識の抑制効果が増大するというダイナミクスの存在が解明された。 これらの研究成果は,Journal of Vision誌とVision Research誌に掲載されると共に,日本基礎心理学会第30回大会にて,優秀発表賞を獲得した。
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