研究課題
国際深海科学掘削計画(IODP)第386次研究航海において日本海溝(水深7,445-8,023 m)の合計6地点から採取された堆積物および直上海水を対象に、早稲田大学にて開発された1細胞ゲノム解析技術(SAG-gel法)を用いてSingle-cell Amplified Genome (SAG)を取得した。また、深さの異なる堆積物サンプルから環境DNAを抽出し、16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づく多様性解析とショットガンメタゲノム解析を実施した。その結果、合計2,785個のSAGが獲得され、従来のMetagenomic Amplified Genome (MAG)では獲得されていない新系統の微生物の配列情報が多数獲得された。特に、沿岸海洋の堆積物で最も優占的な系統群の一つであるAtribacterota 門(JS1)のSAGを279個獲得した。その後、詳細な1細胞ゲノム解析により、当該環境に種レベルで異なる9つのJS1系統が存在することを確認した。さらに、比較ゲノム解析の結果、一部のJS1が細胞外ペプチダーゼや細胞外アミラーゼ遺伝子を特異的に有し、また別のJS1系統の検出頻度は、堆積物中のメタン濃度と正の相関を持つことが示唆された。これらの科学的知見から、日本海溝の堆積物環境では、複数のJS1系統が従属栄養型の微生物生態系機能に寄与していることが示唆された。それらの多様性に係る地理的空間分布は、超深海域に固有のゲノム機能を有する系統群の存在比率を含め、有機物の供給フラックスや海底地滑りなどの地質変動に係る外的環境要因に影響を受けて適応・進化した可能性が考えられる。
2: おおむね順調に進展している
日本海溝の超深海性堆積物に含まれる環境DNAの抽出・精製作業はすでに完了しており、本年度はSAGやMAGの詳細遺伝子解析による未培養Atribacterota門JS1網に属する細菌の系統学的多様性とゲノム機能の推定を行った。本研究により得られた成果をアメリカ微生物学会の科学誌mSphereに投稿し、2024年1月に受理・公開された(Jitsuno et al., 2024)。その他、SAGやMAGを用いた詳細遺伝子解析は順調に進んでおり、論文化に向けたデータの取りまとめをしているところである。
令和6年度は、日本海溝の超深海環境におけるAtribacterota以外の未培養優占種のゲノム機能推定を進め、その成果を論文として発表する(竹山、西川)。また、超深海堆積物コア試料に存在する微生物群集の多様性構造解析、遺伝子定量解析、メタゲノム解析もほぼ完了している。今後は、それらの微生物生態学的な知見と海底地滑り層を含む地質イベントや堆積物の間隙水化学組成、陸域から斜面の海底谷を通じた有機物供給フラックス等との相関解析を進め、その成果を論文としてまとめる(稲垣、星野)。さらに、当該試料から微小なプラスチック粒子の定量・定性分析にも成功しており、同様の環境パラメータとの相関解析を進め、超深海域における物質移動・分解プロセスの時空間的動態に係る考察を行う(田中)。
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mSphere
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http://www.ecord.org/expedition386/
https://j-desc.org/exp-386-japan-trench/