重症心不全の予後はいぜん不良であり、新しい治療法の開発が求められている。心臓は再生能力に乏しいため、心筋梗塞などの障害後は線維化や左室リモデリングが進行するが、現在臨床で有効な心筋再生法や抗線維化治療はない。これに対して我々は、線維芽細胞に心筋特異的転写因子を導入して、心筋を直接作製する心筋リプログラミング法を開発した。さらに急性心筋梗塞モデルマウスに対して心筋リプログラミングにより、心筋再生と梗塞巣の縮小に成功している。これらの結果は、心筋リプログラミングが心筋再生と抗線維化作用の両方を有することを示すが、これまで慢性期心筋梗塞(心不全)に対する報告はない。また瘢痕化した梗塞巣に存在する特殊な心臓線維芽細胞(Matrifibrocyte)のリプログラミング効果も不明である。そこで本研究では慢性期心筋梗塞モデルマウスを用いて心筋リプログラミングの有効性を検証する。本年度は線維芽細胞特異的心筋リプログラミング遺伝子発現マウスの作製を行った。 従来のマウス心臓に遺伝子ベクターを直接導入する方法は、慢性心筋梗塞モデルでは再開胸と菲薄化した梗塞部に遺伝子導入する必要があるため技術的に困難である。そこで慢性心筋梗塞に対する心筋リプログラミングを確立するため、薬剤により線維芽細胞特異的に心筋リプログラミング遺伝子発現を制御できる遺伝子改変マウスを開発する。まず心筋リプログラミング遺伝子発現floxマウス(CAG-CAT-MGTH2A Tg)を作製し、線維芽細胞特異的ER-Creマウス(Tcf21-iCre Tg)、レポーターマウス(R26-tdTomato)と交配してトリプルTG (TTg) マウスを作製する。このTTgマウスにタモキシフェンを投与することで、心筋リプログラミングと心臓線維芽細胞のリネージトレーシングが可能になる。これまでの実験で遺伝子改変マウスの作製に成功している。
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