研究課題/領域番号 |
22K00110
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研究機関 | 国士舘大学 |
研究代表者 |
菱刈 晃夫 国士舘大学, 文学部, 教授 (50338290)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 自然法 / キケロー / 自然の光 / 生得観念 / 神学要覧 |
研究実績の概要 |
「自然の光」説を基盤とする思想、すなわち自然法思想が極めて明瞭にあらわれている 、まずは神学の分野に焦点を合わせ 、主な資料として『神学要覧』を取り上げた。この改訂の内容を大きく三つの時期に分けてたどりながら、メランヒトンの自然法思想と、その根底にある「自然の光」説の受容過程の一端を浮き彫りにした。あわせて、その前提となっているキケロー思想の中で、「自然の光」や「生得観念」がどのように捉えられているのか、整理した。 メランヒトンは1521年の初版『神学要覧』いわゆる『ロキ』と、その草稿ともいえるカピタから、すでに自然法思想を明確に記している。「自然法は共通の見解〔判決文〕であり、すべての人々が等しく賛同する。さらにそれどころか神は各人の精神に(cuiusque animo) 、それを道徳に合わせて〔道徳と適合させられた自然法を〕刻み込んだ(insculpsit)」。次に、初版を第一世代と名づけるなら、第二世代といえる1535年版の『ロキ』、さらにメランヒトン自身によるドイツ語版『ロキ』に、そして第三世代1559年版の最終『ロキ』に、自然法と「自然の光」を探った。「自然法は神の法〔律法〕の知識であり、人間の本性に挿入されている」。「人間の精神には何らかの知識が、あるいはいわば光が挿入されていて、これによって自らによって何かを認識し判断する」。「ちょうど光が神によって目の中に置かれている(inditum)ように、ある種の知識〔観念〕(notitiae)が人間の精神には植え付けられている」。いずれにせよ、メランヒトンが生きた歴史的・社会的現実と激動の中で、メランヒトンにとって自然法と、それを支える「自然の光」説は、人間の自由意志と責任の拠り所となり、とりわけ教育による現実の社会的秩序再構築のための、究極的な支柱となり続けてきたことが浮き彫りにされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
『神学要覧』における自然法思想の変遷と「自然の光」説について探ることができたのみで、予定していた修辞学や弁証学、自然学や倫理学のテキストまでは、とうてい組織的な探索の手を伸ばすことができなかったから。
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今後の研究の推進方策 |
ひとまずメランヒトンが「自然の光」説を受容する源泉となっている重要人物・キケローについて、その解釈のプロセスを、計画通り進める作業へと移る。 修辞学と弁証学については、自然学や倫理学の学問的あるいは方法的フレームを形成しているジャンルでもあり、この中に、自然学や倫理学の内容も、実例として豊富に含まれている。とくにメランヒトンの自然学や自然思想については、これだけで独自の研究テーマとなりうる大きな領域でもあり、新たな研究課題として設定する必要性もある。倫理学については、すでに先行する研究でも取り上げてきたので、自然法や「自然の光」説の変化をピンポイントで抽出してたどることは可能である。したがって未だ未開拓の部分へと、まずは計画通りに進めてみたい。さらに大学での同僚である、シュップフや、さらにその後のゴクレニウスら、メランヒトンの後継者についても、できる限り資料を収集し、計画の中心線だけは保つように努力したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はドイツでの資料収集が困難であり、そのための使用ができなかったが、次年度にあわせて主に資料収集のために用いる。
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