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2023 年度 実施状況報告書

言語的文化的マイノリティの対等な社会参加を実現する日本語教育のための基礎的研究

研究課題

研究課題/領域番号 22K00666
研究機関大阪大学

研究代表者

中井 好男  大阪大学, 大学院人間科学研究科, 准教授 (60709559)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワードマイノリティ / ディスアビリティ インクルージョン / インターセクショナリティ / 共生社会 / オートエスノグラフィー
研究実績の概要

本研究は、コーダ(Children of Deaf Adults)としての研究代表者の経験と視点をもとに、日本社会における言語的文化的マイノリティの課題を洗い出すとともに、公正な社会的包摂を実現するための日本語教育のあり方を模索するものである。
令和5年度は、令和4年度に引き続き、次の3点を予定していた。①マイノリティと協働的オートエスノグラフィーを行うとともに、研究代表者自身のオートエスノグラフィを更新する。②作成されたオートエスノグラフィーを比較、検討することで、言語的文化的マイノリティの社会参加に潜む課題について考察する。③上記のオートエスノグラフィーを題材に日本語教育実践者と対話を行い、日本語教育の課題を検討する。
令和5年度に得られた成果は次のとおりである。まず、外国人研究者や台湾華僑3世、国際児を持つ親、SODA(Siblings of Deaf Adults)との対話を通して、「障害」と「非障害」の境界を生きる障害者家族として生きる研究代表者が持つマイノリティへの視点や障害観の記述を試みることができた。また、マジョリティとマイノリティの区別を問わず、人々がともに経験を共有し、社会的課題を外在化する活動を行うことによって、より公正な社会参加を実現するために必要な人的交流や施策など、多様なレベルでの議論を行うこともできた。さらに、日本語教育実践に関連する問題としては、自己表現活動としての自己紹介活動が持つ暴力性について指摘し、議論することができた。令和5年度は研究者や実践家を交えたシンポジウム、オートエスノグラフィーの記述を目指したワークショップ、手話カフェや障害者との俳句会といったマイノリティとの接触の機会を設けたが、これらの活動は参加者に対して自身の文脈依存的なマジョリティ性やマイノリティ性への気づきと自己変容をもたらすきっかけになることが示唆された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

前年度はマイノリティと対話を通してオートエスノグラフィーを作成するための研究倫理審査が受けられなかったことや心身の不調から研究が進展しなかった。さらに、今年度は所属が変わり、新しい環境に順応することを優先したため、研究活動の時間の確保に多少の労力を要することになった。しかし、多くの研究者との連携やご協力を得ることができたおかげで、前年度に目標としていたことを今年度に実施することができた。シンポジウムをはじめ、多くのワークショップを通した対話の機会を設けたが、これは前年度に予定していたことに加えて、新たに開始し現在も継続している研究活動も含んでおり、今年度はペースを取り戻し、概ね順調に進めることができたと考えている。

今後の研究の推進方策

令和6年度は、令和5年度に引き続き、オートエスノグラフィーの記述とマイノリティとの対話を進める予定である。①多様な人々との対話を通した協働的オートエスノグラフィーを行うとともに、研究代表者自身のオートエスノグラフィを更新する。②作成されたオートエスノグラフィーの比較検討を通して、あるいは、オートエスノグラフィーや経験を日本語教育の研究者や実践家と共有する機会を設けることで、言語的文化的マイノリティの社会参加に潜む課題について考察するとともにその解決に向けた示唆を導き出す。特に、今年度課題として浮き彫りになった自己紹介を中心とする自己表現活動が孕む危険性についてさらなる分析を進め、日本語教育が持つ暴力性について検討していく。さらに、③自身のオートエスノグラフィーの作成や②の対話活動において、多様な表現形式を採用することで、前年度からの検討事項であるオートエスノグラフィーの表現のあり方について探っていく。そして、その中で、オートエスノグラフィーが持つマイノリティ教育の可能性と教師教育の可能性についても分析し、教育方法としてのオートエスノグラフィーの可能性について考察する予定である。

次年度使用額が生じた理由

今年度については発表が決まっていた2件の海外学会の参加を値段の高騰を理由に取りやめたことで、旅費の支出が予定よりも少なくなった。また、協力者が自身の研究資金を利用して参加してくださったこともあって、調査・分析に関わる謝金、人件費を使用することがなかった。しかし、令和6年度は研究者ではない方への調査協力や参加協力を増やすため、これまで未使用であった謝金を使用する予定である。また、オートエスノグラフィーのマルチモーダル化に伴う文字化や動画作成に関する人件費、それに加えてホームページの更新や作成に必要な人件費等の出費も予定しており、今年度の未使用分を補填する計画を立てている。

  • 研究成果

    (14件)

すべて 2024 2023

すべて 学会発表 (14件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)

  • [学会発表] 「多文化共生」はいかに消費されているのか―その登場と歴史的経緯から考える2024

    • 著者名/発表者名
      宮本敬太, 中井好男, 瀬井陽子
    • 学会等名
      「多言語・多文化社会における言語問題に関する研究」シンポジウム「日本社会におけるダイバーシティ研究の最前線 : インクルーシブな社会の実現を目指して」
  • [学会発表] ダイバーシティ・エクイティ&インクル ージョンをめぐるスローガンの趨向と陥穽2024

    • 著者名/発表者名
      宮本敬太, 中井好男, 瀬井陽子
    • 学会等名
      言語文化教育研究学会第10 回年次大会
  • [学会発表] 「言語文化教育研究とは何か」2024

    • 著者名/発表者名
      牛窪隆太, 三代純平, 牲川波都季, 北出慶子, 南浦涼介, 嶋津百代, 松田真希子, 中井好男, 佐野香織, 湊淳, 福村真紀子, 笹井一人, 田嶋美砂子
    • 学会等名
      言語文化教育研究学会第10 回年次大会
  • [学会発表] 人生多面体。障害も俳句も働きもー合作俳句は座の文芸ー2024

    • 著者名/発表者名
      上田假奈代, 高木智志, 大野雅彦, 中井好男
    • 学会等名
      未来共創センター・IMPACTオープンプロジェクト 「対話で進めるディスアビリティ・インクルージョン」
  • [学会発表] オートエスノグラフィー・フェロー キックオフ・ワークショップ「はじめてのオートエスノグラフィー」2024

    • 著者名/発表者名
      嶋津百代, 佐野香織, 中井好男
    • 学会等名
      オートエスノグラフィー・フェロー
  • [学会発表] 多様な時代において自己を表現するワークショップ2024

    • 著者名/発表者名
      中井好男, 津坂朋宏, 高智子, 荻田朋子
    • 学会等名
      日本語プロフィシェンシー研究学会なかよしグループ
  • [学会発表] TEM/TEAにおけるトランスビューとナラティブ2023

    • 著者名/発表者名
      中井好男、丸田健太郎
    • 学会等名
      TEAと質的探究学会第2回大会
    • 招待講演
  • [学会発表] Coda as a Driving Force for a Welcoming Society2023

    • 著者名/発表者名
      Yoshio Nakai
    • 学会等名
      2023 CODA INTERNATIONAL CONFERENCE
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 自己紹介に求められるプロフィシエンシィーとは ー当事者と非当事者による協働オートエスノグラフィをもとにー2023

    • 著者名/発表者名
      中井好男, 高智子, 北川幸子, 津坂朋宏, 荻田朋子, 鎌田修
    • 学会等名
      日本語プロフィシェンシー研究学会 2023年度研究大会
  • [学会発表] モードの異なる言語話者の共生ーろう者の社会参加における課題ー2023

    • 著者名/発表者名
      中井好男, 松尾香奈, 中山亜紀子, 丸田健太郎
    • 学会等名
      共生学会第2回大会
  • [学会発表] 公共的な私と物語的真実を追求するオートエスノグラフィー2023

    • 著者名/発表者名
      中井好男, 中山亜紀子
    • 学会等名
      日本質的心理学会第20回大会
  • [学会発表] 多様な背景を持つ学習者にとって「自己紹介」は簡単なタスクなのか―「当事者」の葛藤を複線径路・等至性モデルで描く―2023

    • 著者名/発表者名
      高智子, 中井好男, 荻田朋子, 津坂朋宏
    • 学会等名
      第13回国際日本語教育・日本研究シンポジウム―つながる多様性、広がる可能性―
    • 国際学会
  • [学会発表] 「私」を語らせる行為―教師のオートエスノグラフィーから見えること―2023

    • 著者名/発表者名
      中井好男, 佐野香織, 嶋津百代
    • 学会等名
      2023年度日本語教育学会秋季大会
  • [学会発表] コーダが捉えることばによるディスビリティ2023

    • 著者名/発表者名
      中井好男, 中山亜紀子, 岡田祥平
    • 学会等名
      シンポジウム共生社会の実現に必要な「ことばへのまなざし」とは

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公開日: 2024-12-25  

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