海外渡航が依然困難な状況にあるため、国内で実施可能な形で研究を遂行した。特に、EU圏の実態につき、関連する法領域に関する理解を深めるため、国内外の研究者による専門的知識の提供を受けた。 汚職によって得られた利益は、不法な利益として剥奪すべきものとして扱われ、そのためにさまざまな法的対応が取られており、日本でも刑法上、贈収賄罪においては必要的没収の規定が置かれている。そこで、EUにおける汚職をめぐる関連規定の検討を進める上では、EUの主要構成国における汚職関連の不法収益等の剥奪についての状況を知る必要があるとの問題意識から、新潟大学の久保英二郎先生より、ご本人の専門領域である没収・追徴に関する議論、実務の運用実態につき、特にドイツを中心にご教授いただいた。また、東京経済大学の中里浩先生からは、競争法における各国間の連携の潮流、制裁の状況など、法的整備と実務の運用につき、特にEU圏の状況を中心にご教授いただいた。競争法分野での規制状況は刑事法とも密接に関連しており、実際の事件でも談合等の問題が汚職と絡んで論じられることが多いため、この点の解明は非常に重要であると実感した。ドイツ・マルティン・ルター(ハレ・ヴィッテンベルク)大学のProf. Joachim Renzikowski先生からは、必要的共犯である贈収賄罪との関連で、犯罪論における共犯論の意義、特に規範論の観点から、共犯論を捉え直すことの意味をご教授いただいた。従来の行為支配的な正犯概念の限界などにつきご講演いただき、様々な点で示唆を得た。
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