研究課題/領域番号 |
22K01782
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
坂口 順也 名古屋大学, 経済学研究科, 教授 (10364689)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 組織間関係 / マネジメント・コントロール / オープンブック会計 / 取引相手の選択 / 経験的研究 |
研究実績の概要 |
本研究は、取引相手の選択がオープンブック会計の実施に与える影響を経験的に検討することで、国内外の管理会計研究の進展と企業実務の理解に貢献することを目的としている。そのため、本研究の初年度にあたる令和4年度では、①関連する文献を調査するとともに、②これにかかわる研究報告を実施した。 まず、①については、とくに管理会計領域におけるオープンブック会計や取引相手の選択に関連する先行研究の包括的な調査を実施した。具体的には、オープンブック会計に関するケース研究(Agndal and Nilsson 2009, 2010, 2019; Dekker 2003; Kajuter and Kulmala 2005; Seal et al. 1999)、統計的実証研究(Caglio 2018; Caglio and Ditillo 2012; Mahama 2006; Mahama and Wang 2023; Windolph and Moeller 2012)、さらには、管理会計情報の共有と獲得する利得や負担するコストについての実験室実験(Drake and Haka 2008; Essa et al. 2018; Miller and Drake 2016)などである。 次に、②については、わが国における先行研究を対象に、取引相手の選択やオープンブック会計を含む組織間マネジメント・コントロールが、(A)どのような視点から、(B)どのような事象について、(C)どのような方法で検討してきたのかを整理した。その結果、わが国では、おもに(A)「管理システムと影響要因との関連性の整理と検証」という視点から、(B)組織間原価管理、取引相手との情報共有、戦略的提携とSCMを対象に、(C)論説・ケース・サーベイなどの方法を採用し検討してきたことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、原価情報を含めた管理会計情報の取引先との共有が「どのような状況で実施されるのか?」という従来の問いに代えて、「とのような取引相手であれば実施できるのか?」という問いを新たに設定している。また、この問いを実証的に解明するために、取引相手の選択とオープンブック会計の実施との関連性について実証的に解明することを計画している。そのため、本研究の初年度にあたる令和4年度では、関連する文献を調査するだけでなく、研究の状況にかかわる研究報告を実施した。 まず、文献調査については、管理会計の領域におけるオープンブック会計の主要な研究について特定することができた。また、その範囲は、本研究と同様の方法(統計的実証研究)を採用する研究(Caglio 2018; Caglio and Ditillo 2012; Mahama 2006; Mahama and Wang 2023; Windolph and Moeller 2012)だけでなく、ケース研究や実験室実験にまで及んでいる。さらに、取引相手の選択についても、管理会計領域の主要な研究をすでに特定することができた(Dekker 2008; Dekker and Van den Abbeele 2010; Ding et al. 2013)。そのため、初年度の文献調査については、おおむね計画通りに進んでいると判断する。 これに加えて、令和4年度では、わが国の先行研究(1990年代から現在まで)を対象とした研究報告を国内学会で実施し、これに関連する研究成果を報告した。この報告は、本研究の中間的な成果であり、次年度以降に研究を進めていく上で重要な役割を果たすと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の初年度にあたる令和4年度では、文献調査を精力的に実施し、管理会計の領域におけるオープンブック会計の主要な研究、および、取引相手の選択に関する管理会計領域の主要な研究を特定することができた。また、わが国の先行研究(1990年代から現在まで)を対象とした研究報告を国内学会で実施し、本研究の中間的な成果を公表することができた。 以上をふまえて、次年度にあたる令和5年度においては、次の三つの方策で研究を進めていくことを計画している。第一は、文献調査の範囲を拡大することである。取引相手の選択や取引相手との情報共有については、管理会計領域だけでなく、経営戦略論、経営組織論、生産管理論、マーケティング論などの隣接領域でも議論が豊富に蓄積されている。そのため、これらの領域における先行研究を対象とし、本研究の文献調査の成果が管理会計領域だけでなく隣接領域にも波及するものとなるように改善する予定である。 第二は、インタビュー調査の実施や質問票調査の準備である。本研究は、取引相手の選択とオープンブック会計の実施の関連性を経験的に解明することを目的としている。そのため、文献調査にとどまらず、経験的調査を実施するための準備を着実に進めていく予定である。 最後は、海外の研究者との議論を通じた研究全体の質の向上である。取引相手の選択やオープンブック会計は、欧米の管理会計領域が世界の研究をリードしている。そのため、欧米の研究機関を実際に訪問し、関連する議論をインテンシブに行い、本研究の実施に反映させることを計画している。なお、訪問する欧米の研究機関においては、現在、具体的に交渉を始めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に海外に出張する可能性があったものの、日程調整が不調に終わり実施できなくなったため、結果的に次年度使用額が生じてしまった。そこで、次年度にあたる令和5年度では、早期の段階から先方との日程調整に着手し、海外への出張を実現できるように取り組んでいる。なお、予定する海外の出張先としては、本研究課題(オープンブック会計)を含めた組織間マネジメント・コントロール研究を世界的にリードする、ベルギーやオランダの研究機関などを予定している。
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