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2022 年度 実施状況報告書

戦後日本における現代史としての教育運動とオルタナティブ教育の関係史

研究課題

研究課題/領域番号 22K02337
研究機関日本大学

研究代表者

香川 七海  日本大学, 法学部, 准教授 (20816368)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワード戦後史 / 戦後教育史 / 教科教育史 / 科学教育史 / 理科教育史 / 算数・数学教育史 / 言説研究 / 社会運動
研究実績の概要

当該年度の研究活動は、初期の段階で、数学者・遠山啓の所論について検討した。従来、戦後教育史のなかでは、1970年代以降の学校批判言説が「教師バッシング」として一律に理解されていたが、本研究によって、その評価が一面的であるということを示した。遠山の学校批判言説は、教育界に対する内在的批判であり、各種の論者、メディア(媒体)によって言説の内容に差異があるということを示した。
また、当初の研究計画にはなかったが、田野大輔氏の著作、『ファシズムの教室』に関する書評を執筆する機会を得た。そこで、この機会に、近代国家や近代教育の陥穽、ファシズムの台頭、ナチス・ドイツの台頭に関する所感を筆者の胸を借りて執筆することができた。本研究は、戦後教育界のオルタナティブ教育に関するものであるが、「なぜ、オルタナティブ教育なのか」、「なぜ、公教育に注目するのか」という根源的な問いの背景には、かつてのドイツの悲劇を忌避するために、「大衆」ではなく、「市民」を育成する必要があるという申請者の問題関心がある。結果的にではあるが、根源的な「市民」に関する教育観を当該の書評のなかで触れることができた。
当該年度では、最後に、科学史学者・板倉聖宣と、彼の提唱した仮説実験授業について検討を行った。板倉の科学教育論は、次のような論点を提供するものである。①科学教育のなかで、どのように戦後民主主義(デモクラシー)を育成/実現しようとしていたのか。②科学教育のなかで、どのように能力主義批判を実現しようとしていたのか。③既存の民間教育研究団体や教育運動のなかで創出された理科教育論と、仮説実験授業の差異(特質)はどのようなものなのか。当該年度では、草稿として、②③についてまとめることができた。今後、適切な学会で研究成果を報告し、論文投稿を行いたい。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

【研究活動内の要因】科学史学者・板倉聖宣に関連する史資料を収集したが、想定を超えて厖大な分量となったことが理由である。板倉が長寿であったこともあり、もともと、彼が書き残した所論は多い。それに加えて、彼の主催する研究団体は、私家版(謄写版、オンデマンド印刷など)の著作物を数多く発行しており、史資料が厖大に発表され、かつ、それが散逸していることがわった(私家版のために、市場に出回らない)。すべてを網羅的に収集しようとしたために、想像を超えて時間がかかってしまった。ただし、おそらく、全体の3/2程度は収集することができたので、次年度以降はそれを活用して研究活動を進めたい。

今後の研究の推進方策

当該年度に蓄積した科学教育に関する史資料をもとに、科学史学者・板倉聖宣の科学教育論の内実を明らかにする。また、この作業を通して、①戦後日本の能力主義批判がどのように実現されようとしていたのか、②科学教育(教科教育分野)から見た主権者教育(シティズンシップ教育)の陥穽などについて検討を進めたい。また、余力があれば、③これまで蓄積した1960~80年代の「戦後民主主義とリテラシー」という視座から、教育技術法則化運動の台頭について検証したい。あるいは、2023年春に、日本のオルタナティブ教育の先駆者である私塾教師・八杉晴実の親族の方らと交流をする機会があった。そこで、八杉に関する多様なライフ・ヒストリーを聴き、また、彼に関係する私文書の存在も知ることができた。いずれ、八杉についても、人物研究という形で、ライフ・ヒストリー、私文書などの検討を行いたい。

次年度使用額が生じた理由

前述の通り、研究計画に若干の遅れが生じているので、それに伴って使用額の部分にも変化が出ている。人件費を計上したが、そもそも、業務を委託できるような時間的な余裕がなく、アルバイトを雇用することができなかった。当該年度にある程度の史資料は買い求めたので、次に必要となる史資料、その所在なども明らかになっている。次年度は、板倉聖宣の事績について、①科学教育史、②メリトクラシーの視点から分析を進める費用に充てる。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2022

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件)

  • [雑誌論文] 数学者・遠山啓による学校批判の性格2022

    • 著者名/発表者名
      香川七海
    • 雑誌名

      日本教育社会学会(発売:東洋館出版社)『教育社会学研究』

      巻: 第110集 ページ: 259-281

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 書評 田野大輔『ファシズムの教室 なぜ集団は暴走するのか』(大月書店) ーホロコーストの複数性と「普通の人びと」の位相について2022

    • 著者名/発表者名
      香川七海
    • 雑誌名

      『人文×社会』編集委員会(東京大学人文社会系研究科 文学部 院生/学部生有志)『人文×社会』

      巻: 6 ページ: 223-244

    • オープンアクセス
  • [学会発表] 「エビデンスに基づく教育」に対する質的研究の可能性2022

    • 著者名/発表者名
      香川七海
    • 学会等名
      日本教育社会学会

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公開日: 2023-12-25  

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