研究実績の概要 |
内在的公正推論は、直接的で物理的な因果関係が存在しないなかで、不運な出来事の原因を、その人物の過去の道徳的失敗に求めるものである。内在的公正推論の文化差を検討するにあたり、当該年度は日本人を対象に思考様式と内在的公正推論の関係性を探索的に検討した。Nisbett et al. (2001) によると、東アジア人は欧米人に比べて包括的な思考様式をもち、(1)部分よりも全体に注意が向き、(2)より多くの情報を考慮した複雑な原因と結果の関係を予測し、(3)現象は常に変化すると考え、(5)中庸を好むとされる(Choi, et al., 2007)。内在的公正推論は、包括的思考様式の中でも、特に、部分より全体に注目する傾向や、複雑な因果関係を想定する傾向と関連する可能性がある。そこで、日本国籍を持つ男女360名(男性157名, 女性201名, 回答しない2名, 平均年齢39.77歳, SD = 9.74)を対象にデータ収集をし、分析を行った。街路樹が突然根こそぎ倒れ、男性の運転する車が下敷きになるという、Murayama & Miura (2023)と同様のシナリオを用いた。男性が(1)過去に窃盗の罪で在宅起訴された高校教員(悪い人)の条件、(2)熱心に生徒の指導に当たる高校教員(良い人)の条件に、(3)男性の道徳的価値情報を呈示しない条件を加え、道徳的価値の操作をした。その結果、ターゲット人物の道徳的価値に関する情報がない条件では、複雑な因果関係を想定することと内在的公正推論の強さに関連傾向が見られた。ただし、ターゲット人物の道徳的価値によって思考様式との関連が異なる傾向にあった。本研究では英語版の尺度を邦訳して用いたが、今後は、思考様式の測定方法にさらなる工夫が必要であると考えられる。
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