研究課題/領域番号 |
22K03234
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
橋本 康史 琉球大学, 理学部, 准教授 (30452733)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | セルバーグゼータ関数 / 跡公式 / length spectrum / 普遍性定理 |
研究実績の概要 |
セルバーグゼータ関数は体積有限なリーマン面上の素な測地線の長さに関するオイラー積で定義されるゼータ関数である。素数に関するオイラー積で定義されるリーマンゼータ関数とは、全複素平面上に有理型に解析接続されることや関数等式をもつことなど、少なからず類似する点をもつ一方で、有理型関数としての位数や素元の分布と重複度などの相違点が少なからずあり、これらのゼータ関数としての解析性や値分布を比較することは重要である。2022年度の研究では、セルバーグゼータ関数の値の普遍性の研究に取り組んだ。ゼータ関数の普遍性の研究は1970年代のVoroninによる研究以降、活発に行われているが、そのほとんどはリーマンゼータ関数やディリクレ級数、またはセルバーグクラスのゼータ関数などの位数が1のゼータ関数に関するもので、セルバーグゼータ関数に対しては、Drungilas-Garunkstis-Kacenas(2013)と見正(2021)によるそれぞれモジュラー群と主合同部分群に関する研究しかない。本研究では、このセルバーグゼータ関数の普遍性定理が、モジュラー群と主合同部分群だけでなく、もっと一般的にモジュラー群と不定値四元数環から定義される余コンパクトな群の部分群に対して、成り立つことを証明した。さらに前年度までに得られたセルバーグゼータ関数の2乗積分の評価を応用することで、既存の研究よりも普遍性定理が成り立つ非絶対収束域内の領域を広げることもできた。本研究の成果についてはすでに、国内の研究集会で発表しており、近々論文としてまとめ、国際学術誌に投稿し掲載を目指す予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初2022年度には、length spectrumに関する数論的表示の拡張・一般化と、セルバーグゼータ関数の解析性、特殊値、値分布に関する研究を行う計画であった。前者については、今のところ公表すべき成果が得られていないが、後者については、セルバーグゼータ関数の普遍性定理をかなり広い範囲の数論的な(arithmeticな) 群に対して証明することができ、さらに普遍性定理の適用範囲も既存の研究より広げることができた。以上、当初の計画を必ずしも全て達成したわけではないが、普遍性定理については想定以上の成果を得られたことから、総合的に「当初の計画以上に進展している」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度に得られた普遍性定理に関する研究成果は、すでにSarnak(1981),荒川-小山-中筋(2002),橋本(2013)によって得られていたlength spectrumの数論的な表示を利用して得られたものである。これらを拡張・一般化することで(少なくとも余コンパクトでない)全ての数論的な群に対して同様の結果を得られることが期待できる。加えて、ラプラシアンのスペクトルについても、普遍性定理の観点から研究を進める。とくに、その証明で用いられた値分布理論の(ある種の確率論的な)手法を利用することで、新たな知見を得られることが期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は当初対面での参加を予定していたものの、都合によりオンラインでの参加に変更した研究集会が数件あった。加えて、当初購入を予定していたPCの発売が大幅に遅れ、年度内の購入を見送ったことから、当初の想定よりも支出額が少なくなった。PCの購入は次年度に行い、対面開催が想定される研究集会にも積極的に参加する予定である。
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