研究課題/領域番号 |
22K04867
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
田邉 洋一 岡山理科大学, 理学部, 准教授 (80574649)
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研究分担者 |
伊藤 良一 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (90700170)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | グラフェン / 3次元曲面 / 3次元ナノ多孔質グラフェン |
研究実績の概要 |
本年度は3次元ナノ多孔質グラフェン(3Dグラフェン)の曲げ・ひずみ特性を明らかにすることを目的として曲率半径50-150nmの試料を用いて電気2重層ゲルトランジスタを作製し、室温においてデバイスを曲げた場合の伝達特性の測定を行った。その結果、デバイスを曲げた場合においても、電気抵抗の値とオンオフ比などのパラメータが大きく変化しないことが分かった。さらに、曲面をもつ銅ステージを用いて試料を曲げた状態で2K-200Kの温度領域で磁場中の電気抵抗測定を行った結果、磁気抵抗効果の磁場依存性が平坦なステージ上で測定した結果とほとんど変わらないことが分かった。次に、昨年度実施した曲率半径50-150nmの試料の電気2重層ゲルトランジスタの測定データの解析を行った結果、電荷中性点近傍において電荷不純物による強い散乱の影響があることが分かった。この場合、グラフェン上に存在する様々な電荷不純物は、電荷不純物からグラフェンへの電荷移動を通して電子正孔パドルと呼ばれる電子型と正孔型の状態が空間的に不均一に存在した電子状態を形成することから、電荷中性点近傍の電子状態の観測を阻害する。このような電荷不純物の影響を排するために、電気2重層トランジスタを用いて、グラフェンチャネル上に存在する電荷不純物を電気分解して、イオン液体を入れ替える作業を何度も繰り返し、チャネルを十分に洗浄してから、同様の測定を行った。その結果、電気抵抗の温度依存性と磁場依存性から電荷中性点近傍にバンドギャップが形成されていることを示す結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3Dグラフェンの曲げ・ひずみ特性については、室温における伝達特性と、低温における磁気抵抗効果の測定を計画通り実施し、曲げることによって電気伝導物性に大きな変化がないことを確認することができた。本物質を用いたフレキシブルセンサー等の開発において重要な特性が明らかになった。次に、電荷中性点近傍の物性については、昨年度行った実験データの解析結果をもとに、グラフェンの洗浄と再実験を行った。その結果、当初予想された量子ホール効果の観測とは異なり、バンドギャップの形成を示唆する結果が得られた。本物質では、曲面に存在するトポロジカル欠陥や表面張力に由来するバレー間・バレー内散乱によって、ハニカム格子を形成する2種類の原子に由来する、疑スピンの対称性で特徴づけられたディラック電子状態が混ざり合うことで、バンドギャップを開く可能性があることからこれを観測した可能性がある。最終年度に、より詳細なゲート電圧依存性を測定することで、電荷中性点近傍の電子状態を明らかにする目途がたった。従って、両課題について、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、電荷中性点近傍のバンドギャップの形成について、中性点領域、p型領域、n型領域について、電気抵抗の温度依存性、磁場依存性、ホール抵抗の磁場依存性の測定を詳細に行うことで、3Dグラフェンの電子状態について、電気伝導物性から明らかにする。これまでの、実験から、電気2重層トランジスタを利用してグラフェン表面の不純物を電気分解することが効果的であることが分かっているので、この方法を用いて洗浄した試料を用いて測定を行う。各ゲート電圧における電気伝導の温度依存性と磁場依存性の解析から電荷中性点近傍の電子状態と電気伝導物性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
ガス循環精製装置一式の購入に際して、少額の差額が生じたが、5円の誤差であるので、ほぼ計画通りに使用したと言える。残額は、次年度の消耗品費と合算して使用する。
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