本研究では,清酒の原材料および産地を,NMRによる安定同位体比分析を用いて判別する手法を開発することを目的としている.食品に含まれる元素の同位体存在比は,原材料の生物種や生育環境を反映して,地球上の元素の天然存在比からわずかにずれることが知られている.本研究の成果は,TPPなど清酒の国際取引の場面において,日本酒の品質を科学的手法により評価あるいは保証する手段となることが予想され,清酒のブランド価値を保護することにつながる. 前年度までに,清酒を蒸留して高純度のエチルアルコールを精製する方法を確立した.さらに,NMRを用いて,重水素(D)のNMRスペクトルを測定し,エチルアルコールのメチル基とメチレン基の水素安定同位体比を決定する方法を確立した. 本年度は,清酒から精製したエチルアルコールを測定試料として,NMRを用いて水素の安定同位体比分析をおこなった.その結果,メチル基の水素安定同位体比は清酒の原材料植物の水素安定同位体比を反映しており,そのため,清酒に醸造アルコールを添加しているかどうか,およびその添加割合を推定する指標にとして有効であることがわかった.また,メチレン基の水素安定同位体比は醸造所のなんらかの環境因子の影響を受けていることが示唆された. さらに,質量分析装置を用いて,清酒(含有成分を精製しない状態)の炭素および窒素の安定同位体比分析をおこなった.その結果,炭素の同位体比は,清酒に糖類を添加しているかどうかを判別する指標になることがわかった.
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