研究課題/領域番号 |
22K05558
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
西村 浩平 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (80582709)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 出芽酵母 / 動物培養細胞 / 細胞内タンパク質分解 / AID法 / AlissAID法 |
研究実績の概要 |
従来型の阻害薬や作動薬とは全く異なる働きをもつ、低分子化合物が今、大きな注目を集めている。これらの分子は、ユビキチン・プロテアソーム系を利用することで、疾患の発症や悪化に関わる異常タンパク質の分解を誘導する。これらの化合物は標的とする異常タンパク質をE3ユビキチンライゲースとの相互作用を誘引することから、Molecular Glue Degrader (分子糊、MGD)と呼ばれている。標的タンパク質の機能を阻害していた従来の低分子薬とは異なり、標的タンパク質分解誘導薬は、転写因子やスプライシングファクターなど、酵素活性を持たない因子をも標的とすることが可能であり、新しい低分子治療薬として大きな期待を集めている。一方で、小分子化合物の改変ではなく、タンパク質自体を改変することによって、標的とするタンパク質の分解を誘導する系の開発も進んでいる。申請者の開発したAuxin-Inducible Degron (AID)法は植物ホルモン・オーキシンによって、標的タンパク質の分解除去を誘導する系である(Nishimura et al., Nature Methods, 2009)。最近、申請者らは、タンパク質工学とケミカルバイオロジーを駆使して、分解誘導剤の濃度を1/1000にまで減少させたssAID法を確立した。この成功が本研究課題の端緒となっている(Nishimura et al., Nucleic Acids Res, 2020)。本研究の目的は申請者が開発・改良に携わってきたAID法にさらなる改良を加えることにより、医薬品へと昇華可能なタンパク質分解系の確立を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請者は真核生物細胞のモデル生物である出芽酵母を用いて、ssAID法と小分子抗体を組み合わせたAlissAID法を構築した。このAlissAID法では小分子抗体が認識した標的タンパク質の分解を合成オーキシンである5-Ad-IAAによって誘導することが可能となる。特に出芽酵母においては様々なタンパク質にGFPタグを融合させたGFPノックインライブラリーが存在しているため、GFP抗体を用いたAlissAID法を利用することで様々なタンパク質に対する分解誘導株を簡便に構築できるようになった(Ogawa et al., PLoS Genet, 2023)。本手法は出芽酵母のみならず、幅広い真核生物細胞に適用することが可能であると考えられたため、動物の培養細胞においてAlissAID法の構築を試みた。動物細胞においてもGFPやmCherryといった蛍光タンパク質を標的とした小分子抗体を用いることによって、細胞内において、これらを結合したタンパク質の分解が確認された。さらに動物細胞においてはタグを持たない内在性のタンパク質を認識する小分子抗体を用いることで、これらのタンパク質の分解も可能であることを示した。以上の研究から、動物細胞においても出芽酵母細胞と同様にAlissAID法が効率的に機能することを示すことに成功した(Ogawa et al., In preparation)
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今後の研究の推進方策 |
本研究推進のため、世界有数のライブラリ作製能力を持つ株式会社MabGenesisとの間で共同研究契約を締結し、細胞内で機能する小分子抗体の取得において共同研究ベースで研究を遂行できるようになった。そのため、今後は提供を受けたラクダVHHのファージライブラリを用いて、細胞内タンパク質に対する小分子抗体スクリーニングを行い。得られた抗体を用いて、細胞内の内在性タンパク質のノックダウンを行っていく。また本研究により、細胞内のタンパク質をAlissAID法によって分解除去することが可能になったため、次に動物個体においてこのような分解が可能であるかを検証する。動物個体としては受精直後のマウス胚を用いて、標的タンパク質の分解が可能であるかを検証する。マウス胚の取り扱いについては自然科学研究機構基礎生物学研究所の藤森俊彦先生との共同研究にて遂行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度、本年度ともありがたいことに民間の助成金をいただくことができたため、科研費による研究費負担が減少し、結果として、未使用額が増加した。来年度以降は使用できる予算が大きく減少してしまう可能性があるため、残りの研究費については本年度に加えて、来年度の研究費用として使用していく予定である。
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