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2023 年度 実施状況報告書

膜内切断プロテアーゼの活性化における構造的根拠の解明

研究課題

研究課題/領域番号 22K06121
研究機関東北大学

研究代表者

二井 勇人  東北大学, 農学研究科, 准教授 (90447459)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワード膜内切断プロテアーゼ / 認知症 / 酵母 / 酵素 / アルツハイマー病 / 脳神経疾患
研究実績の概要

膜内切断プロテアーゼは疎水的な膜環境で特殊な加水分解を行うため、酵素学的には未知の点が多い。本研究では、認知症の原因となるアミロイドβペプチドを生成するγセクレターゼの活性化の分子機構を解明するために、Ⅰ. 酵母モデル系を活用したγセクレターゼ活性調節・基質認識機構の解明と、Ⅱ. γセクレターゼ活性化変異体のコンホメーション変化の解明を目的とした。
令和5年度においては、Ⅰ.酵母モデル系を活用した研究では、1)アミロイド前駆体(APP)切断部位のカルボキシ末端側の基質結合部位に注目し、APP(基質)とプレセニリン(酵素,γセクレターゼの触媒サブユニット)の両方に同定した切断活性化変異の相互作用を解析した。切断の活性化には基質―酵素間のイオン相互作用が重要であることが明らかとなった。2)γセクレターゼの新たな基質として膜貫通型レクチンVIP36を同定した。一方、VIP36のホモログVIPLの膜貫通領域はほぼ切断を受けず、切断部位近傍の配列が切断効率を決める要因となることを明らかにした。
Ⅱ. γセクレターゼ活性化変異体の構造解析では、1)ヒト胎児腎臓293F細胞を用いたγセクレターゼ大量発現系を構築した。CAGプロモーターでγセクレターゼの4サブユニットを発現するpMLinkプラスミドを構築し、293F細胞に遺伝子導入(リポフェクション)して一過性発現させた。
2)Flagタグ(Pen2-Flag)抗体によるアフィニティ精製とゲルろ過クロマトグラフィーにより均一な複合体に精製した後、クライオ電子顕微鏡解析により粒子状態を確認し、3次元再構成を行った。粒子数が少なく、立体構造の解明にはいたらず、改善の余地が残った。酵母大量発現系では、γセクレターゼ活性化変異体のサブユニット構成が保たれず、ニカストリンの含量が低い問題があったが、293F細胞で発現することにより解決した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

実施を予定していた(I)酵母モデル系を活用したγセクレターゼ活性調節・基質認識機構の解明と、(II)γセクレターゼ活性化変異体のコンホメーション変化の解明について、達成度を自己評価する。
(I)酵母モデル系を用いたスクリーニングで、基質結合部位に存在するアミロイド前駆体の変異部位とプレセニリンの変異部位について19種のアミノ酸に変化させ切断を活性化する要因を明らかにした。また、決断効率が著しく異なるホモログタンパク質(VIP36とVIPL)間で配列を入れ替えて、切断部位近傍の配列が切断効率を決める要因となることを明らかとした。いずれも遺伝学的な手法が簡便な酵母の系の利点を活かしてγセクレターゼの触媒機構を明らかにしたことは意義深い。アルツハイマー病の治療薬の開発にもつながる成果である。
(II)また、前年度問題があった酵母γセクレターゼ大量発現系から、293F細胞を使ったγセクレターゼ大量発現系に変更し、発現系と精製系を構築した。さらにはクライオ電子顕微鏡の解析によってγセクレターゼの粒子を確認する目標を達成し、ニカストリンの含量が少ないという酵母の系の課題を解決した。今後は、活性化変異体の立体構造の解明に向けて、293F細胞の大量発現系を改良し、精製条件を最適化する必要がある。

今後の研究の推進方策

当初の予定通り、γセクレターゼの機能と構造を解析する研究を進める。
1年目にAPPの切断部位における切断感受性変異体の解析に成功して、APP変異体を解析する展望が開けた。γセクレターゼの構造解析においては、酵母の系でのγセクレターゼ大量発現には成功したが、精製過程でニカストリンが外れる問題点が見つかった。
2年目は、変異体の詳細な解析からγセクレターゼとAPPの相互作用による基質認識機構を解明した。γセクレターゼの構造解析においては、ヒト293F細胞を用いたγセクレターゼ発現により、クライオ電子顕微鏡での解析へと進んだ。
最終年度は、酵母での切断活性化変異のスクリーニングを続行し、認知症治療薬のターゲットとなりうる基質―酵素結合領域を探索し、哺乳類細胞を用いた機能解析を行う。またクライオ電子顕微鏡を用いた解析から、γセクレターゼ活性化変異体の立体構造を解明し、人工知能を用いた動的コンホメーション解析を行う。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2024 2023

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) 産業財産権 (1件)

  • [雑誌論文] C-terminal amino acids in the type I transmembrane domain of L-type lectin VIP36 affect γ-secretase susceptibility2024

    • 著者名/発表者名
      Hua Zhihai、Watanabe Ryoma、Fukunaga Taku、Matsui Yojiro、Matsuoka Mayu、Yamaguchi Shoya、Tanabe Shun-ya、Yamamoto Miyu、Tamura-Kawakami Keiko、Takagi Junichi、Kajita Mihoko、Futai Eugene、Shirakabe Kyoko
    • 雑誌名

      Biochemical and Biophysical Research Communications

      巻: 696 ページ: 149504~149504

    • DOI

      10.1016/j.bbrc.2024.149504

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] A Metalloproteinase Cocktail from the Venom of Protobothrops flavoviridis Cleaves Amyloid Beta Peptides at the α-Cleavage Site2023

    • 著者名/発表者名
      Futai Eugene、Kawasaki Hajime、Sato Shinichi、Daoudi Khadija、Hidaka Masafumi、Tomita Taisuke、Ogawa Tomohisa
    • 雑誌名

      Toxins

      巻: 15 ページ: 500~500

    • DOI

      10.3390/toxins15080500

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] A Metalloprotease cocktail from the venom of Protobothrops flavoviridis cleaves amyloid beta peptides at the α-cleavage site.2023

    • 著者名/発表者名
      Eugene Futai, Hajime Kawasaki, Shinichi Sato, Khadija Daoudi, Masafumi Hidaka, Taisuke Tomita, Tomohisa Ogawa
    • 学会等名
      東京大学医科学研究所奄美病害動物施設第3棟改築記念シンポジウム
  • [学会発表] C9orf72連鎖性筋萎縮性側索硬化症および前頭側頭型認知症におけるAUG非依存性翻訳機構解析系の構築2023

    • 著者名/発表者名
      伊藤匠, 日高將文, 小川智久, 二井勇人
    • 学会等名
      第96回日本生化学会大会
  • [学会発表] Specific presenilin mutation near the substrate binding site modulate γ-secretase activity2023

    • 著者名/発表者名
      山口晶也, 鈴木涼太, 日高將文, 小川智久, 二井勇人
    • 学会等名
      第96回日本生化学会大会
  • [学会発表] Habu snake three-finger toxins showed inhibitory activity against γ-secretase involved in amyloid β production causing Alzheimer disease2023

    • 著者名/発表者名
      Tomohisa Ogawa, Rina Sakakibara, Masayoshi Seki, Masafumi Hidaka, Eugene Futai
    • 学会等名
      第60回ペプチド討論会
  • [学会発表] γセクレターゼ活性化変異体の立体構造解析に向けた大量発現・精製系の構築2023

    • 著者名/発表者名
      井上大輝, 日高將文, 小川智久, 二井勇人
    • 学会等名
      日本農芸化学会東北支部会第158回大会
  • [産業財産権] アミロイドβを分解する酵素、及びこれを用いた医薬組成物2023

    • 発明者名
      二井勇人、小川智久、川崎創、佐藤伸一、日高将文
    • 権利者名
      二井勇人、小川智久、川崎創、佐藤伸一、日高将文
    • 産業財産権種類
      特許
    • 産業財産権番号
      特願2023-190410

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公開日: 2024-12-25  

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