研究実績の概要 |
私達はウイルスと宿主細胞の膜融合を安全かつ迅速に測定できるCell-Cell fusionアッセイを用いて新型コロナウイルスSARS-CoV-2 感染を抑制する脂質代謝酵素の阻害剤をスクリーニングした。その結果、脂質代謝酵素ジヒドロセラミドデサチュラーゼ (DEGS1)の阻害剤 N-(4Hydroxyphenyl)retinamide (4-HPR、別名フェンレチニド) が SARS-CoV-2 のスパイクタンパク質を介した膜融合を抑制することを見出した (Hayashi et al., Journal of Virology, 2021)。 令和5年度は、4-HPRによるSARS-CoV-2感染の抑制メカニズムをさらに明らかにした。光退色後蛍光回復法 (FRAP: Fluorescence Recovery After Photobleaching) を用いた細胞膜流動性解析を行った。CHO-K1細胞に対して、細胞膜を蛍光標識できるGPI-HaloTagタンパク質、あるいはウイルスと結合する受容体である ACE2 の GFP 融合タンパク質を一過性に遺伝子発現させた。次に、4-HPR処理による膜流動性の変化を計測した。その結果、4-HPR処理細胞において有意な膜流動性の低下を確認した。また4-HPRによる、スパイクタンパク質を介した細胞膜融合の抑制は、ビタミンE (トコフェロール) で解除できることを見出していたことから、トコフェロールを4-HPR処理細胞に添加しFRAP計測を行ったところ、未処理細胞と同等のレベルまで膜流動性が回復した。以上のことから、4-HPRは活性酸素の産生を介して細胞膜の流動性低下を惹起することで、SARS-CoV-2感染の抑制を促していることを明らかにした。
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