研究課題/領域番号 |
22K06697
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
矢野 育子 神戸大学, 医学部附属病院, 教授 (50273446)
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研究分担者 |
山本 和宏 神戸大学, 医学部附属病院, 講師 (30610349)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 妊婦 / 新生児 / 生理学的薬物動態モデル / 抗精神病薬 / LC-MS/MS / リスペリドン / パリペリドン |
研究実績の概要 |
非定型抗精神病薬リスペリドン、パリペリドン、クエチアピン、ブレクスピプラゾールの4種についてLC-MS/MS法を用いた測定系を構築した。血漿および母乳中濃度について定量限界はいずれも0.25 ng/mLで直線性を確認し、現在、同時測定法および乾燥濾紙血液スポット法への応用について検討中である。 ブレクスピプラゾール、リスペリドン、クエチアピンの3剤を服用していた妊婦の出産前後における血漿中各薬物濃度を測定した結果、ブレクスピプラゾールの血漿中濃度は出産後経時的に上昇し、出産後5日目では出産直後の4倍以上を示した。同時に測定したクエチアピン血漿中濃度も出産後に上昇傾向を示した。リスペリドンは体内で主としてCYP2D6で代謝され、活性代謝物パリペリドンとなり、パリペリドンは主として腎排泄される。本症例では、リスペリドン血漿中濃度は2.4-3.4 ng/mLで検出されたが、出産の影響は顕著でなかった。一方、パリペリドンの血中濃度は出産後経時的に上昇し、出産5日目の値は出産直後の3倍以上の値を示した。 妊婦におけるリスペリドンとパリペリドンの生理学的薬物動態モデルを用いた検討の結果、CYP2D6を介したリスペリドン肝固有クリアランスは出産前に比べて妊娠40週で3倍以上上昇し、肝クリアランスとして1.6倍上昇する。また、リスペリドンの肝初回通過効果が上昇し、バイオアベイラビリティとして50%低下するため、リスペリドンから生成されるパリペリドン量は妊娠の影響を受けにくい。一方、パリペリドンの全身クリアランスはGFRの上昇をはじめ種々の妊娠時の変化により2倍程度上昇するため、妊娠時に血漿中濃度はむしろ低下することが示唆された。今後、消失経路が異なる薬剤の妊娠時の薬物動態変動について生理学的薬物動態モデルを用いた検討を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リスペリドンと活性代謝物パリペリドンに関する生理学的薬物動態モデルを構築し、リスペリドン服用中の妊産婦とその児から得られた血中濃度との対応を検討した論文が掲載された。LC-MS/MSを用いた個々の非定型抗精神薬の測定法については確立済であるが、同時測定系については未だ開発中であるため。
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今後の研究の推進方策 |
LC-MS/MSを用いた個々の非定型抗精神薬の同時測定系について、引き続き検討するとともに、血液サンプル量の軽減を可能とする乾燥濾紙血液スポットサンプリング法を開発する。リスペリドンおよびパリペリドン以外の抗精神病薬の生理学的薬物動態モデルを構築し、臨床への適用を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、海外や国内出張が制限されたため。また、新規に購入する消耗品が少なかったため。
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