研究課題
本研究は、脊髄損傷後生じる自発的な構造的・機能的再建を果たすことの可能な有尾両生類である成体イモリを用い、成体イモリ脊髄再生における神経細胞新生の意義と、神経細胞新生を生じせしめる因子の同定、そして3次元的組織再構築を果たす由来細胞の特定を目指すものである。2022年度では、特に成体イモリ脊髄再生における神経細胞新生の意義に関する研究を行う予定となっていた。部位特異的遺伝子組換えによるspatiotemporalな遺伝子発現制御手法を応用し、ドライバーとして脊髄上衣細胞特異的ERT2CreERT2、レポーターとして神経細胞特異的loxP-mKate2-loxP-EGFPおよび神経細胞特異的loxP-mKate2-loxP-ジフテリア毒素Aをそれぞれトランスジェニックしたイモリを作成し、F2世代以降を得ている。これまでに、これらの動物を掛け合わせたダブルトランスジェニック動物を得、幼若個体における神経細胞におけるmKate2発現を確認と、タモキシフェン投与後の新生神経細胞におけるEGFP発現を確認した。このことは、幼若個体において脊髄上衣細胞が新生神経細胞の細胞ソースとして機能していることを示している。タモキシフェン投与後の脊髄損傷によりEGFP発現細胞が増加することから、損傷刺激が神経細胞新生のトリガーとなっていることが示唆されている。2022年度においては、申請時計画に先駆けて神経細胞新生を生じせしめる因子の同定についてもアプローチした。損傷2週間後に再生組織を採取しトランスクリプトーム解析を行うことで、発現亢進を見た30遺伝子を同定し、in situ hybridizationによりそれぞれの発現パターンを確認した。
2: おおむね順調に進展している
イモリ脊髄再生における神経細胞新生の意義に関する実験系においては、遺伝子組換え後の蛍光蛋白質発現様式が想定通りの結果を示していたが、成体においてはmKate2の赤色蛍光が減弱することが確認されており、新たな神経細胞特異的プロモーターの同定・開発が必要であるかもしれないと考えている。一方で、申請時の計画に先駆け、神経細胞新生を生じせしめる因子の同定に関してもアプローチし、神経細胞新生に資することが期待される因子として新たな遺伝子群が見出された。これらのことから、全体としてはおおむね順調に進展していると判断されるものと考えた。
イモリ脊髄再生における神経細胞新生の意義に関する実験系においては、成体におけるmKate2赤色蛍光の減弱の度合いと、それによる新たな神経細胞特異的プロモーターの同定・開発の必要性の見極めが必要となる。神経細胞新生を生じせしめる因子の同定については、見出された新たな遺伝子群の正常脊髄および損傷脊髄組織における遺伝子発現様式と、モルフォリノやゲノム編集によるその機能を明らかとする実験に移る。
本研究のための事前準備が良好であったため、大幅に支出を抑制できた。来年度は更にトランスクリプトーム解析およびシングルセル解析を進めるが、余剰分により緻密な解析が可能となるものと考えられる。
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