研究課題/領域番号 |
22K06872
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
衣斐 大祐 名城大学, 薬学部, 准教授 (40757514)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 難治性うつ病 / シロシビン / 抗うつ薬 / セロトニン5-HT2A受容体 |
研究実績の概要 |
マジックマッシュルームの幻覚成分「シロシビン」が難治性うつ病に対し、治療効果を示すことから、米国食品医薬品局(FDA)は、シロシビンを難治性うつ病の革新的治療薬になると発表した(Nutt et al., Cell 2020)。現在、シロシビンの抗うつ作用に関する臨床試験として、米国では第3相試験が行われている。さらにオーストラリアでは2023年7月より、難治性うつ病に対しての使用が認められた。このように欧米の国々はシロシビンのうつ病治療における臨床使用の試みが始まっている。しかしながら、その作用機序は未だ不明である。 我々はこれまでにもマウスにシロシン(シロシビンの活性代謝物)を投与し、マウスの抗うつ様行動を調べるために強制水泳試験(FST)を行ったところ、無動時間の短縮(≒抗うつ様作用)が認められた。さらに、社会性敗北ストレス(SDS)曝露マウスは新たに出会ったマウスから逃避する(社会的忌避)行動を示すが、シロシンの投与により、その行動も改善した。また、シロシン投与によりFSTで認められた無動時間の短縮やSDS曝露マウスの社会的忌避行動の改善作用はいずれもセロトニン5-HT2A受容体(5-HT2A)アンタゴニストのボリナンセリンをシロシンの前に処置することで拮抗された。次にシロシンの抗不安作用を調べるために新奇環境下摂食抑制試験(NSFT)をマウスで行い、絶食マウスにシロシンを投与し、新奇環境下における摂餌までの時間を測定したところ、シロシン投与マウスはコントロールの絶食マウスに比べて、摂餌までの時間が有意に短かった(≒抗不安様行動)。興味深いことにこの作用はボリナンセリンの前処置により拮抗されなかった。以上から、シロシビン(シロシン)の抗うつ作用は5-HT2A依存的に生じている可能性があるが、抗不安作用は別の作用が関与しているかもしれない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナ感染症の流行により入構や輸入等の制限が緩和され、2020年および2021年度より研究活動の自由度が増したため「おおむね順調に進んでいる」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はシロシビンの抗うつ作用に関わる脳領域さらに神経回路を同定していきたい。既に我々は5-HT2Aが大脳皮質、扁桃体および外側中隔核に豊富に発現していることを明らかにしている。これまでの報告から、外側中隔核がストレス応答行動や抗うつ作用に関わっていることが分かっている(Sheehan et al., Brain Res Rev 2004)。そこで我々はこれまでにマウスの外側中隔核にボリナンセリンを局所的に微量投与したところ、シロシンの抗うつ様作用は認められなかった(未発表データ)。この結果は、外側中隔核の5-HT2Aがシロシンの抗うつ作用における責任脳部位であることを示唆している。今後は外側中隔核の5-HT2A遺伝子の発現を抑制したマウスを用いて、シロシンの抗うつ様作用を調べていきたい。さらに、外側中隔核の5-HT2A発現神経細胞の投射先などを明らかにし、シロシンの抗うつ作用に関わる神経回路を同定し、その機能を明らかにしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品の割引、為替や物価の変動により購入品の値段を正確に予測すことが難しく、数千円余る形となった。余った分は次年度に必要な消耗品等の購入で使いたい。
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