研究課題
臓器サイズの制御は、生物の発生と恒常性維持に必要不可欠であり、サイズ制御の破綻はがんなどの疾患の発症に直結する。しかしながら、臓器の力学恒常性の基本原理は未だに解明されていない。私たちは、体と臓器の扁平化を起こすhirameメダカ変異体の単離・解析から、その原因遺伝子YAPが、組織の3D化と各々の組織の配置を統御して重力に抗した3D臓器を構築する新しい機構を見出した[Porazinski, Asaoka (共筆頭著者), Nature (2015)]。しかし、YAPがどのように外部の力学特性の変化に応答し、エンハンサーへの結合を介して標的遺伝子の発現を制御し、組織全体の力学特性へとフィードバックしているのか詳細は不明のままである。そこで本研究では、臓器の再生時の力学特性の変化に応答し、脱分化の遺伝子ネットワークを統御するYAP力学制御エンハンセオソームの実体を明らかにすることを目的とする。本年度は、臓器再生時のYAP-メカノホメオスターシスの役割を明らかにするために、ゼブラフィッシュ尾ヒレ再生系を用いることにした。理由は、①ヒレ切断後、成魚では3週間、幼魚では3日間でヒレが元のサイズを回復するが、組織が平たく臓器サイズの定量を行い易い。②組織が透明で、力学測定やシングルセルでの細胞応答動態のライブイメージングに適している。③遺伝学的解析(ノックアウト・過剰発現)でcausal-relationshipを検証できるといった利点を合わせ持つためである。臓器再生時の力学特性の変化を精査するため、磁性ビーズをゼブラフィッシュ幼魚の尾ヒレに微量注入し、磁場印加時の磁性ビーズの挙動から組織力学特性を定量化した。また、ジーンガンを用いて磁性ビーズをゼブラフィッシュ成魚の尾ヒレへ導入する系を確立した。
2: おおむね順調に進展している
当初計画に従い臓器再生時のYAP-メカノホメオスターシスの役割を明らかにするために、ゼブラフィッシュ尾ヒレ再生系における力学計測系の立ち上げに着手しており、概ね順調に本研究課題は進展している。
今後はYAPの活性を詳細に可視化できるトランスジェニックフィッシュを樹立し、尾ひれ再生時のYAP活性と組織力学特性の相関を時空間的に解析する予定である。
当初の研究計画の通り、ゼブラフィッシュ成魚における尾ヒレの組織力学測定の計測系の樹立を進めてきたが、当初予定より磁場発生装置の作成に時間を要した。また、より定量的かつ高精度の計測のために、磁場発生装置をより大型に改良する必要性が出てきた。こうした研究計画の一部練り直しのため、次年度使用額が生じた。次年度はより大型の磁場発生装置の作成に着手し、再生時の尾ヒレの組織力学特性のダイナミックな変化を詳細に解析する予定である。
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PLOS ONE
巻: 17 ページ: e0269077
10.1371/journal.pone.0269077