研究課題/領域番号 |
22K07003
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
城本 悠助 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (40912259)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 精子幹細胞 / piRNA / 生殖細胞腫瘍 |
研究実績の概要 |
生殖細胞は次世代に遺伝情報を伝搬するという特殊な能力をもつ一方で、潜在的な多能性を持ち、奇形腫を形成して体細胞にも脱分化する。しかし、生殖細胞の持つ多能性がどのように抑制されているかについては未だ明らかでない。生殖細胞の遺伝子発現制御において特徴的な役割を果たすものとして小分子RNAであるPiwi interacting RNA (piRNA)が知られており、生殖細胞のゲノムを守るという重要な役割を果たしているが、近年ではpiRNAががんを含めた様々な生命現象に関わることも明らかになってきた。本研究では培養精子幹細胞であるgermline stem (GS)細胞を用いた実験で、piRNAと結合する分子であるMILI (Mouse piwi like)の欠損がGS細胞の脱分化を誘導し、奇形腫の形成を促すことを見出した。また、MILI-piRNA経路の標的遺伝子として転写因子であり多能性を制御するSox2を同定した。MILI欠損GS細胞において、Sox2のRNA量及びタンパク量が著しく増加しており、MILIがSox2の転写を制御していると考えられた。また、MILI欠損GS細胞においてSox2遺伝子のノックダウンを行ったところ、脱分化が引き起こされなくなったことから、MILI欠損GS細胞においてSox2が脱分化に必須の因子であることが明らかとなった。また、生体ではMILI欠損マウスにおいて精巣腫瘍は認められなかったが、Trp53欠損マウスとの交配により、低確率ではあるものの精巣が肥大する所見が認められた。肥大組織の染色解析により、テラトーマが形成されているか明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウス生殖細胞で産生されるpiRNAによる転写制御システムは主に繰り返し配列であるレトロトランスポゾン遺伝子や一部のインプリント遺伝子を標的にすると考えられてきた。また、piRNA産生遺伝子やPiwiファミリータンパクを欠損した場合、精子形成が停止するなど、細胞分化に影響が認められる。そのため、マウスでは均一な細胞集団での解析が困難であり、新規の標的遺伝子の解析が困難であった。しかし、GS細胞を用いたRNA-seqやウエスタンブロット解析により、早期にpiRNAシステムによるSox2の制御を明らかにすることができ、またMILI欠損GS細胞における脱分化にSox2が必須であることを証明することができた。現在、他の脱分化抑制遺伝子との関係を解析しており、多重ノックダウンを駆使し、潜在的多能性の制御機構の解明に取り掛かっている。 生体での解析はMILIとTrp53欠損マウスとの交配が完了し、その精巣に生殖細胞が存在することを免疫染色法により明らかにした。MILI欠損による精子形成の停止に対してTrp53は影響を与えなかったが、飼育を続けると精巣が肥大した個体が観察された。その発生頻度が低いため、完了していないが、MILI及びTrp53欠損マウスでの、精巣腫瘍の解析を進めている。加えて生体精巣においてどのようにMILI-piRNA経路がテラトーマ形成に寄与するか明らかにするため、GS細胞を用いた解析により同定した他の脱分化抑制遺伝子欠損マウスとの交配を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までにMILI-piRNA経路によるSox2の制御を明らかにすることができた。しかし、MILI欠損GS細胞はTrp53及びDMRT1の抑制がなければ、数ヶ月にわたる培養でも形質転換しない。そこで、MILI-piRNA経路とTP53やDMRT1による抑制機構との関係を明らかにする必要がある。遺伝子発現解析に加え、Trp53が関与する機能として、ストレス顆粒形成、DNA修復、細胞周期、アポトーシス、細胞老化、オートファジーに機能する遺伝子のノックダウンを行い、形質転換の抑制に寄与する下流の機能を明らかにする。また、MILI-piRNA経路やDMRT1の標的遺伝子と比較を行い、生殖細胞における形質転換の抑制に寄与する細胞内機能を明らかにする。 加えて、近年の次世代シークエンサーを用いた解析により同定されたヒト精巣がんで変異が生じている遺伝子についても、遺伝子ノックダウンや過剰発現を行い解析することでがん化が引き起こされる機構を明らかにする。 また、MILI及びTrp53欠損マウスの解析を継続し、生体での脱分化、テラトーマ 形成にについての解析を行う。加えてGS細胞を用いた解析により同定した他の脱分化抑制遺伝子欠損マウスとの交配をすることで、生体精巣においてどのようにMILI-piRNA経路がテラトーマ形成に寄与するか明らかにする。テラトーマの形成については組織染色により、3胚葉組織が混在する腫瘍であるか調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
RNA-seq解析を京大学内の施設にて実施できたため、当初予定していた費用より低価格で実施できたこと、またSox2遺伝子のノックダウンレンチウイルスは過去の研究において作製しており、新たに作製する必要がなかったため、次年度使用額が生じた。 次年度では精巣がん遺伝子の解析に新たなノックダウンベクターの作製と大規模解析が予定されている。既に候補遺伝子がいくつか存在することからそれらの解析に使用する予定である。
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