研究課題
生体内のイノシトール6リン酸(IP6)、7リン酸(IP7)は、中枢神経以外に、腸管、特に腸管神経叢に多く分布している。また、IP6をIP7にリン酸化する酵素であるIP6キナーゼ(IP6K)欠落が細胞内異常たんぱく質凝集体の形成を阻害して、細胞間伝搬を阻害する。神経変性疾患の中枢神経系でIP6K活性の上昇によりIP7が増加し、神経細胞死を誘導していることより、中枢神経系と腸管系のIP6、IP7、IP6Kとの関連を検討することにより、神経変性疾患における細胞内異常たんぱく質凝集体の腸管迷走神経より、中枢神経系、さらには脳内神経細胞への細胞間伝搬の可能性につき検討する。本年度は、異常αシヌクレイン凝集体をマウス脳内の淡蒼球に注入するためのマウス頭部固定装置、注入装置などを購入し、セットアップを行い、wildマウスを用いた実験では、過去の報告のように異常αシヌクレインをマウスの片側caudate-putamenに注入し、3か月間観察した。途中の1カ月ごとに行動解析の評価としてRotarodを行い、3ヵ月目にマウス脳を採材した。マウス脳のウェスタンブロットにて異常αシヌクレインのリン酸化が認められ、免疫組織でも注入部周囲にリン酸化αシヌクレイン陽性細胞が散見された。また、コントロールとして注入したαシヌクレインのモノマー(細胞内凝集体は作らない、リン酸化されない)では、ウェスタンブロットでバンドが検出されず、免疫組織でもリン酸化αシヌクレイン陽性細胞は観察されなかった。また、IP6K2ノックアウトマウスで同様の実験を行うと、異常αシヌクレイン注入マウスではウェスタンブロットで、明らかにwildマウスより薄いバンドしか検出されなく、免疫組織の陽性細胞も少なかった。
2: おおむね順調に進展している
現在までおおむね順調に実験できているが、IP6K2ノックアウトマウスの繁殖が遅く、現在n数を増やすために追加で実験を行っているが、早急にノックアウトマウスの数を揃えられないでいる。
今後IP6K2ノックアウトマウスのn数を増やして、検討を行うとともに、wildマウスならびにIP6K2ノックアウトマウスで胃、十二指腸部位の筋層にこの異常αシヌクレインを注入して、迷走神経を介しての異常αシヌクレインの脳内の細胞間伝搬を観察する。さらに迷走神経を切断したモデルでも検討を行う。
購入予定の機器が、工夫することにより予想外に新規に機器を購入せずに、もとからある機器で代用できたため。また、練習用に脳内αシヌクレイン注入マウスを購入予定であったが、手技をわりと早くに取得できたために必要がなくなった。本研究に関して、マウスの匹数増加による検証が必要であり、また、それに伴う試薬の購入、マウスの飼育費および交配、維持のための資金が必要である。
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Front Neurol
巻: 14 ページ: 1334004
10.3389/fneur.2023.1334004
Sci Rep
巻: 13 ページ: 21703
10.1038/s41598-023-48993-7