研究課題
細胞外からのカルシウムイオン流入調節に重要な役割を担っているAキナーゼアンカー蛋白(AKAP)79/150のノックアウト(AKAP-KO)マウスを用いて、ベータ遮断薬であるカルベジロールならびにプロプラノロールを投与し、冠攣縮抑制効果を検討した。AKAP-KOマウスにアゴニスト(エルゴノビン)を投与すると体表面心電図にてST上昇が観察された。カルベジロール投与により冠攣縮は抑制されたが、プロプラノロール投与では抑制されなかった。続いて、AKAP-KOマウスの大動脈より血管平滑筋細胞を分離培養し、アセチルコリン(ACh)で細胞を刺激したところ、カルシウムイオンの細胞内への流入はコントロール群とカルベジロール投与群、プロプラノロール投与群で有意差を認めなかった。さらに、血管平滑筋の収縮に直接関与しているミオシン軽鎖のリン酸化は、カルベジロール投与により抑制されたが、プロプラノロール投与では抑制されなかった。ミオシン軽鎖リン酸化に関与しているカルモジュリンキナーゼIIのリン酸化は、コントロール群と比較しカルベジロール投与群で低下していたが、プロプラノロール投与群では低下していなかった。冠攣縮性狭心症患者3名より得られた末梢血単核球細胞を用いて、iPS細胞を作成し、染色体異常のないiPS細胞を血管平滑筋細胞に分化誘導した。血管平滑筋細胞特異的マーカーであるalpha-smooth muscle actin、SM22alphaの発現を、免疫蛍光法ならびにフローサイトメトリー法にて確認した。ベースラインの細胞内カルシウムイオン濃度は健常コントロール群と冠攣縮性狭心症患者群で差を認めなかった。AChで細胞を刺激したところ、カルシウムイオンの細胞内への流入は、健常コントロール群に比べ冠攣縮性狭心症患者群で有意に上昇していた。現在、詳細なメカニズムを検討中である。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書に記載された研究計画がおおむね実行されている。冠攣縮におけるカルシウム感受性亢進の関与ならびにカルベジロールの冠攣縮抑制効果について、動物実験ならびに細胞実験により興味深い結果が得られている。さらに、冠攣縮性狭心症患者由来のiPS細胞から血管平滑筋細胞への分化誘導に成功し、細胞内カルシウムイオン濃度の上昇も確認されており、上記区分(2)に該当すると思われる。
交付申請書の研究計画に沿った実験をすすめていく。AKAP-KOマウスで見出されたカルシウム感受性亢進を介する新しい冠攣縮のメカニズムならびにカルベジロールの冠攣縮抑制効果について、その分子機構の解明をさらに推し進めていく。冠攣縮性狭心症患者由来のiPS細胞から分化誘導した血管平滑筋細胞を用いて、動物モデルで得られた実験結果を検証し、冠攣縮性狭心症の新たな治療法の確立に向けて、研究を深めていく。
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Heart and Vessels
巻: 39 ページ: 373~381
10.1007/s00380-023-02345-7
Circulation Journal
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