研究課題
2023年度は、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞の培養上清(MSC-CM)中のエクソソームと蛋白質分離後の腫瘍増殖への効果について検討を行った。① MSC-CMのエクソソームとそれを除いたCMの腫瘍増殖への効果:MSC-CMを超遠心機を用いて分離後、上清を蛋白質、沈渣をエクソソーム分画に分けて、まず、NanoSightにより粒子サイズが平均100 nmであることや、エクソソームのマーカー分子CD63とCD81の抗体を用いたウエスタンブロット解析より、両者が綺麗に分離されていることがわかった。そこで、ヒト肺癌A549とマウス扁平上皮癌SSCVIIの細胞培養系に両者を別々に加えて、それぞれの腫瘍増殖能の抑制効果への影響を調べた。蛋白質分画では、どちらの腫瘍も分離前と同様に腫瘍増殖を強く抑制したが、エクソソーム分画ではどちらも抑制能が有意に低下した。② MSC-CM中のエクソソームmicroRNA解析:上述のMSC-CM中のエクソソームからRNAを抽出し、GeneChip miRNA Arrayを用いて網羅的に発現解析を行ったところ、アレイに用いた6599種類のmicroRNAの内、1046個のmicroRNAが検出された。その中には、hsa-miR-6126やhsa-miR-320、hsa-miR-4484など腫瘍増殖の抑制に関与していると報告のあるmicroRNAも見られた。以上より、MSC-CM中のエクソソーム中には、腫瘍増殖の抑制に関与していそうなmicroRNAも見られたが、エクソソームよりInsulin-like growth factor binding protein-4などの増殖因子やサイトカインなどの蛋白質が、腫瘍増殖の抑制効果に重要であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
ヒト骨髄由来間葉系幹細胞の培養上清(MSC-CM)の腫瘍増殖への効果と作用機序が明らかになってきているので、ほぼ計画の予定通り進んでいる。
前年度の結果より、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞の培養上清(MSC-CM)による腫瘍増殖の抑制効果にエクソソームがあまり関与していなかったので、2024年度は、当初の予定を少し変更し、MSCの細胞投与の腫瘍増殖への影響とMSC-CMの作用機序について、さらに、詳細に検討する。① MSCの細胞投与の腫瘍増殖への影響:これまでの報告より、MSCの細胞投与は、MSC-CM投与とは逆に、腫瘍増殖を促進する可能性が高いことが報告されている。そこで、MSC-CM投与の優位性を示すために、マウス扁平上皮癌SSCVII腫瘍をマウス皮内投与後、腫瘍が触れる位になった時、MSCを静注投与、MSC-CMは腫瘍近傍に皮内投与し、経時的に腫瘍径を測定し、腫瘍形成への影響を比較する。安楽死後、腫瘍より組織切片を作製し抗CD31抗体を用いた免疫組織化学的解析により新生血管数を比較する。② MSC-CMの腫瘍増殖抑制効果の作用機序:作用機序として、MSC-CM中のInsulin-like growth factor binding protein-4(IGFBP-4)が、培地の牛胎児血清(FBS、1%)中のInsulin-like growth factor(IGF)に結合しそのシグナルを抑制している可能性が考えられる。そこで、まず、組換えIGFBP-4およびMSC-CMを1%FBSと先に混ぜて1時間保温後、SSCVII腫瘍のin vitro細胞培養系に加え腫瘍増殖への影響を調べる。次に、腫瘍と混ぜて24時間後に細胞溶解液を調製し、IGFのシグナル伝達に関与するAKTと ERK、さらに、IGF受容体(IGF-1Rb)のリン酸化をウエスタンブロット解析により比較検討し、作用機序を明らかにする。
使用金額の端数を合わせることができなかったため、次年度使用が生じた。残金は、次年度の消耗品代に加えて使用する計画である。
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