研究課題/領域番号 |
22K08757
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
山田 和歌 鹿児島大学, 医歯学総合研究科, 客員研究員 (20457659)
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研究分担者 |
家入 里志 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (00363359)
松久保 眞 鹿児島大学, 医歯学総合研究科, 客員研究員 (00528036)
大西 峻 鹿児島大学, 医歯学域鹿児島大学病院, 助教 (10614638)
矢野 圭輔 鹿児島大学, 医歯学総合研究科, 客員研究員 (30757919)
村上 雅一 鹿児島大学, 鹿児島大学病院, 医員 (40825361)
加治 建 久留米大学, 医学部, 教授 (50315420)
杉田 光士郎 鹿児島大学, 鹿児島大学病院, 特任助教 (50781514)
武藤 充 鹿児島大学, 医歯学域鹿児島大学病院, 講師 (70404522)
春松 敏夫 鹿児島大学, 鹿児島大学病院, 特任助教 (70614642)
山田 耕嗣 鹿児島大学, 医歯学総合研究科, 客員研究員 (80528042)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 短腸症候群 / 腸管順応 / 大量腸管切除 / 完全静脈栄養 / Glucagon-like peptide-2 / ghrelin / 肝細胞増殖因子 |
研究実績の概要 |
当施設では長年、短腸症候群における腸管粘膜萎縮の機序、術後の腸管順応に関してラットを用いた研究を行ってきた。我々が行っている大量腸管切除+完全経静脈栄養管理(TPN:total parenteral nutrition)モデルラットによる研究は、国内では当研究グループからのみ報告されており、国内で唯一の確立された短腸症候群+TPNの病態を反映した動物モデルである。これまで腸管順応に関わる消化管ホルモンとして腸管順応早期に効果的な陰窩細胞増殖促進能を有するGlucagon-like peptide-2(GLP-2)に関する研究に携わり、GLP-2のアナログ製剤であるtedgltideの小児短腸症候群における臨床治験にも参加している。また、成長ホルモン分泌促進ペプチドであるghrelinが、長期絶食動物モデルにおいて腸管粘膜萎縮、特に回腸の粘膜萎縮に対して予防効果があることを報告してきた。大量腸管切除+TPNモデルにおいてghrelinの残存腸管順応促進作用を示唆する結果を報告し、GLP-2との併用によるより効果的な腸管順応への促進を示唆するデータが得られている。更なるステップアップとして細胞の増殖促進作用をもつ肝細胞増殖因子(Hepatocyte Growth Factor,HGF)に着目した。HGFは消化管間質組織で発現、分泌され、paracrine的な機序で隣接する消化管上皮組織の増殖を調整していると考えられており、HGFの短腸症候群における細胞増殖促進や組織修復効果を検討することは、腸管順応のメカニズム解明へとつながると期待している。これら3つの消化管ホルモンを短腸症候群の病期に応じて使い分けることで、より迅速で効果的な腸管順応へ導くことができるのではと考え着手している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでGLP-2、ghrelinにおいても長期絶食+TPNにおける腸管粘膜萎縮に予防効果があることを検討しその効果を明らかにしてきたため、まず今年度は新たに追加したHGFに長期絶食+TPNにおける腸管粘膜萎縮に関して予防効果があるかの検討を行なった。また長期TPNにおける肝障害も臨床では生命に関わることがあり、完全静脈栄養によって発症する中心静脈脈栄養関連性肝障害(parental nutrition-associated liver disease:PNALD)を引き起こすことがあるため、肝障害についても検討することとした。7週齢の雄性SDラットを使用する。WHO2012によるとヒトの平均寿命は68歳であり、ラットの平均寿命は725日である。ヒトの約半年に相当する7日間をモデルラットの長期絶食期間として設定し観察を行う。吸入麻酔下に右外頸静脈から右上大静脈起始部に中心静脈カテーテルを留置し、皮下を通して背部に導出し経静脈栄養ルートを確保する。投与量によって4グループに分け、自由食餌群、HGF非投与群、低容量HGF投与群、高容量HGF投与群に分け、それぞれの生理学的評価、生化学的評価、腸管の形態学的評価、免疫染色を含めた組織学的評価を行い、長期絶食+TPNにおける腸管粘膜萎縮に関するHGFの効果を検討した。高容量HGF投与群は空腸の絨毛高と吸収性粘膜面積が有意に高く、また低容量HGF投与群、高容量HGF投与群は非投与群に比べ空腸の陰窩細胞増殖率において有意に高いとの結果が得られた。 長期絶食+TPNにおけるHGFの肝障害に関する効果を判定するため、肝臓障害に関しても比較項目を追加し研究を行っているが、肝障害の結果に関しては効果判定にまで至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
長期絶食+TPNラットモデルにおけるHGFの肝障害に関する効果を判定するため、自由食餌群、HGF非投与群、低容量HGF投与群、高容量HGF投与群の4群に分け、肝臓障害に関する生理学的評価、生化学的評価、炎症性サイトカインなどの組織学的項目を追加し研究を行っているため、これに関するHGFの効果判定をまず行う。肝障害に関する評価後、短腸症候群における腸管順応にHGFがどのように作用するかを検討する。令和4年度の研究にて、長期絶食+TPNラットモデルにおける腸管粘膜萎縮に関して、HGFが空腸の絨毛高、陰窩細胞増殖に関して効果的であるという結果が得られたため、短腸症候群に近いラットモデル作成を行い、術後の腸管順応におけるHGFの作用を評価する。大量腸管切除モデルとして80%短腸ラットモデルを作成する。8週齢のSDラットの小腸長は約90cmであるため、吸入麻酔下にトライツ靭帯より5cm肛側~回腸末端より5cm口側の小腸を切除後腸管吻合し、80%大量腸管切除モデルとする。また、同時に右外頸静脈から右上大静脈起始部に中心静脈カテーテルを留置し、皮下を通して背部に導出し経静脈栄養ルートを確保する。7日間のTPN管理を行い、HGF非投与群、低容量HGF投与群、高容量HGF投与群の3群に分け、それぞれの生理学的評価、生化学的評価、腸管の形態学的評価、免疫染色を含めた組織学的評価を行い腸管順応と腸管不全関連肝障害に関する効果の評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染の影響で研究継続が困難な時期があり、実験計画がやや停滞した。また海外発表等の機会も得られなかった。そのため、肝評価に関する薬品や実験器具、旅費に関して令和4年度に計上していたが使用しなかった項目がある。上記でも述べたが肝評価に関する研究は継続するため令和5年度に使用する予定である。
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