研究課題
本研究課題の主題であるニコチンアミドメチル基転移酵素(NNMT)は申請者が報告した膵臓癌シングルセルアトラスから探索された分子であり、悪性細胞、腫瘍関連線維芽細胞(CAF)などで発現が亢進することがmRNAレベルで確認できていた。当該年度ではそのタンパク質発現を、ヒトすい臓がん病理標本100例を用いて解析を行った。CAFについては一様の高発現が見られた一方で、悪性細胞においては症例間および症例内でも発現陽性細胞の頻度に大きな不均一性が見られた。高分化型腫瘍細胞には陽性細胞が少なく、低/中分化細胞に陽性細胞が多い傾向を得ている。またacinar-ductal metaplasia (ADM)の箇所でNNMT陽性細胞が増加していることが病理解析から観察され、シングルセルアトラスにおいてNNMT mRNA発現を再確認したところ、acinarから上皮細胞への分化移行部において発現獲得している様子が確認できた。上記のことは、細胞の分化に伴う大きなエピジェネティック変化とメチル基転移反応のかかわりにNNMTが関与している可能性を想像させる結果である。次に膵癌細胞株4つと膵星細胞株 (PSC), 膵癌患者由来CAF細胞を用いてNNMT発現抑制実験を行った。まず膵癌細胞株に比べてPSC, CAFで有意に高いNNMT発現が確認できた。4つの膵癌細胞株にはNNMTの発現量に差があり、2つはNNMT低発現、残り2つは中程度の発現量であった。NNMTのsiRNA実験では、NNMT発現を有する2株において増殖抑制効果が確認できた。
2: おおむね順調に進展している
100例以上の臨床検体の収集と解析、in vitroの実験系の構築から評価まで順調に進んでいると考えられる。
NNMTは腫瘍だけでなく、線維芽細胞、血管内皮細胞、ADM細胞など複数の細胞種で発現が確認されたが、膵癌病理の症例内/症例間の構造レベル/細胞レベルの不均一性が大きく、マニュアルアノテーションでは細胞種に分けた発現定量に限界があった。そこで機械学習を用いた病理アノテーションを取り入れ、各症例の各細胞の陽性率を算出していく。これをもって臨床的背景との統計解析を実施する。実際のNNMT発現量で言うと、腫瘍細胞よりCAF細胞の方が明らかに高いことが確認された。腫瘍成分よりも間質成分の方が多い膵癌においては腫瘍細胞でのNNMTよりもCAFでのNNMTを解析する方が有意義であることが想定されたため、今後はCAFのin vitro解析に注力していく。
円安の影響により、予定以上の試薬代の値上がりのため一部次年度に行う実験が増えたため。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 3件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 6件)
Cell Reports
巻: - ページ: 112276~112276
10.1016/j.celrep.2023.112276
British Journal of Cancer
巻: - ページ: -
10.1038/s41416-023-02202-4
Nature Communications
巻: 13 ページ: -
10.1038/s41467-022-33744-5
Science Advances
巻: 8 ページ: -
10.1126/sciadv.abn2138
Scientific Reports
巻: 12 ページ: -
10.1038/s41598-022-15196-5
iScience
巻: 25 ページ: 104659~104659
10.1016/j.isci.2022.104659
Regenerative Therapy
巻: 21 ページ: 52~61
10.1016/j.reth.2022.05.009