研究実績の概要 |
膵癌は腫瘍免疫活性が低く、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の効果が乏しい現状であるが、共有結合DNAアプタマーを応用したICI(Immune checkpoint inhibit covalently-binding aptamers:ICIA)を開発し効果を検証する目的で研究を開始した。DNAアプタマーは生体内でDNAseの影響で速やかに分解されるため、効果が不安定という欠点がある。そこで共有結合を付加し安定したDNAアプタマーの作成の予備実験を施行した。Tabuchiらの論文(Chem. Commun.,2021,57,2483-86)を参考にthrombinに対するaptamer(thrombin binding aptamer:TBA) を共有結合化したアプタマーをコントロールとし、PD-L1に対する共有結合アプタマーを複数作成した。PD-L1に対するアプタマーの塩基配列は複数報告があるが、塩基数が比較的少なく複数検証された、aptPD-L1(Molecular Therapy-Nucleic Acids20165,e397)を選択し、16番目、20番目、45番目のT残基にwarheadを導入した共有結合型アプタマーを作成した。SDS-PAGEで観察すると、コントロールのTBAはthrombinとの結合が確認されたが、PD-L1とcovalent aptamer(T16,T20,T45,3riplet)の4種類はいずれも結合を確認できなかった。Native-PAGやSELEX bufferを用いたり、bufferの種類や条件設定を複数施行したが、いずれも結合を確認できなかった。そこで、癌細胞の増殖因子VEGF165に対する共有結合アプタマーを作成し実験系がワークしているかを検証した。結果、VEGF165共有結合アプタマー(T4,T17,T22)は3種ともVEGFとの結合が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
PD-L1に対する共有結合アプタマーは、DNAアプタマーの配列のうち、T残基にAr-SO2Fを結合して作成するが、複数のT残基からどの部位を選択するかの指標はない。今回は、PD-L1との結合部位そのものに被らず、かつ遠すぎない位置を選択しT16,T20,T45とその3種全部の4種類を作成した。しかし、抗原抗体反応と同様にDNAの三次元構造によっては、Ar-SO2F結合部位が、抗原との結合そのものを阻害する位置となっていた可能性がある。また、PD-L1とDNAアプタマーの結合は、SELEX法を用いた結合環境で決定した配列であるため、本実験で用いた共有結合型アプタマーの結合条件での反応が良くなかった可能性もある。そこで条件設定を可能な限りのバリエーションで施行を重ねたが解決には至らなかった。
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