研究実績の概要 |
急性大動脈解離に伴う呼吸機能低下は, その背景に血管の構造破綻を起因とする全身性炎症性症候群(SIRS)が考えられていて, 特に好中球エラスターゼ活性の上昇が急性肺障害(ALI)の原因であることが 動物実験を通して示唆されている. 本研究では, 好中球エラスターゼ阻害薬の肺特異的な抗炎症性効果を証明するのが最終目標だが, まず急性大動脈解離で惹起されると考えられる炎症性サイトカインの発現を証明し、病態生理について解明することが必要と考えた. 令和4年度は、急性大動脈解離の手術で得られる組織を用いて、病変部位において実際に炎症が惹起されているかどうかを、免疫染色法を用いて組織学的に解析した. 始めに、炎症性メディエーターであるIL-6の発現変化を検討したが、適切な抗体を見つけることができなかった. そのため、IL-6の転写因子であるStat3のリン酸化(pStat3)を指標に、炎症の惹起と炎症性メディエーターの発現を評価した.大動脈解離群において大動脈壁内部のpStat3陽性細胞の割合は約71%で、コントロール群(真性瘤)と比較して高い傾向にあり(約51%)、大動脈症例では炎症が強く惹起されていることが示唆され、本研究の仮説をサポートする結果となった。 令和5年度は、本研究での仮説を臨床例で検証すべく、過去10年間の急性大動脈解離症例200例での好中球エラスターゼ阻害薬使用有無による呼吸機能改善の程度を比較した。しかし患者重症度が均一でないためか両群間で有意差は出ず、今後の研究推進の上では課題の残る結果となった。
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