研究課題
患者報告型アウトカム Patient reported outcome (PRO) により既知の客観的評価項目では測定できなかった「健康の質」について、Health related quality of life (HRQOL) や手段的日常生活動作 (instrumental activity of daily life: IADL) を用いて評価することが可能となっている。本研究では、泌尿器がん患者の中でも、術前後で生活スタイルや日常生活機能が大きく変化する膀胱全摘除術を受ける患者に着目し、手術前後のHRQOLとIADLを経時的に評価する。特に、術後にHRQOLやIADLが損なわれる患者の因子についての基盤データを作成し、術前から術後にかけての早期介入(リハビリ、公共サービス等)による改善の可能性を探る。更に、これらのPROの結果を積極的に日常臨床に利活用し、術前の意思決定をサポートできる情報提供ツールを開発することを目的とする。膀胱がん特異的QOL尺度、Bladder Cancer Index日本語版を用いた縦断的HRQOL研究では、これまでの開腹手術、腹腔鏡手術といった術式に加えて、近年保険収載されたロボット支援膀胱全摘術後のHRQOL評価を行った。2023年1月時点で、日本全国から263名の患者さんに本研究のアンケート調査に参加いただくことができており、今後詳細について解析予定である。本研究は、妥当性・信頼性の検証された膀胱がん特異的QOL尺度を用いて、国内多施設において縦断的に行う点で、過去に例のない独創的な研究となる。
2: おおむね順調に進展している
対象患者は北海道大学病院および全国の約30施設で膀胱全摘除術を受ける患者としていた。本研究は前向き観察研究として、膀胱全摘術を受ける膀胱がん患者を登録し、術前、術後(3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月)の全般的HRQOL評価(QGEN-10: 患者自身の健康についての考え方について、QDIS-7: 併存している別の病気についての健康関連QOL調査票)、膀胱がん特異QOL評価、Body Image Scale (BIS:患者自身の外見についての調査票)、Euro Qol 5 Dimension(EQ-5D)、老研式IADL(Tokyo Metropolitan Institute of Gerontology Index of Competence Instrumental ADL)の調査を行う予定としていた。実際にこの1年で、263名の患者から調査票を回収することができている。今後は、これらのデータを解析し、術後1年時点での術式(開腹手術、鏡視下手術)間および尿路変向術式間でのHRQOL及びIADLの比較を行う。まずは、横断研究として、膀胱がん手術を受けた患者における、術式別のBody Image Scaleの違いについて解析した論文を、Scientific reportsに公表することができた。泌尿器がん患者の多くは治療を終え、がんを根治することができた後も、生涯にわたり排尿・排便・性に関わる多岐の後遺障害に悩まされていることが改めて明らかとされた結果である。本研究の成果により今後治療を受ける膀胱がん患者の治療選択や治療後のHRQOLに関する基盤データが創出され、治療前の患者が情報を得ることができる点で、大きな恩恵となると考えられる。
縦断的なHRQOL評価を残りの研究機関で継続し、調査データを集積する。まずは、横断研究の解析データを今後明らかとする。また、以下の2つを中心に今後の研究をすすめる予定である。(1) 膀胱全摘術後患者の縦断的なPRO評価による基盤データの構築本研究では縦断的にHRQOL評価を行うことで、術前から術後にかけて患者にどの程度のHRQOL低下が見られるのか、また、その低下を防ぐためにどのような臨床的介入が求められているのかを評価することを目的とする。本研究の成果により今後治療を受ける膀胱がん患者の治療選択や治療後のHRQOLに関する基盤データが創出され、治療前の患者が情報を得ることができる点で、大きな恩恵となると考えられる。(2)術前の意思決定をサポートするアプリの開発近年、がん薬物療法を実施中の患者に対するPRO介入の有用性を検討する臨床試験が現在も複数実施されている。特に、electronic PRO(ePRO)が紙媒体でのPROに代わって、近年増加している。ePROは、紙媒体と比較して記入コンプライアンスが良好であり、入力されたデータへのアクセスが容易であるとの報告がある。本研究では、紙媒体以外にもタブレットを用いたePRO環境について準備をすすめる。次に、縦断的に集められたPROデータをもとに、患者が術前に意思決定をする際のサポートアプリを作成する。このアプリを利用することで、術前の患者が蓄積された基盤情報を活用することができる。さらに、既に治療を受けられた患者とのコミュニケーションツールとしての展開を図る。つまり、このようなアプリを利用することで、患者と医者の治療経過の全体像認識について、ギャップが埋められることが期待される。
患者からのHRQOLデータの集積が無事進んでいる。非常に貴重でかつ、膨大なデータを解析する為にはデータベースソフトが必要である。また、統計学的解析には統計解析ソフトが必要であり、その年間ライセンスについて計上する。今後は解析結果について、国内および国外の学会で報告する予定である。また、患者向けの意思決定支援アプリ開発の準備費用に予算が必要である。またアプリの動作確認のため、iPad購入費用を計上している。
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Scientific Reports
巻: 12 ページ: 21544
10.1038/s41598-022-25669-2