研究課題/領域番号 |
22K09814
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
三田村 佳典 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 教授 (30287536)
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研究分担者 |
仙波 賢太郎 徳島大学, 病院, 助教 (10745748)
江川 麻理子 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 講師 (70507657)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 外科 / 細胞・組織 / 生体分子 / 糖尿病 / 臨床 |
研究実績の概要 |
糖尿病網膜症の病因にはVEGFが深く関与し抗VEGF療法が臨床応用されているが、抗VEGF療法に抵抗性を示す症例もある。VEGFの上流シグナルを解明することにより、抗VEGF療法よりも効果的な糖尿病網膜症治療を実現できる可能性がある。リガンド応答性の核内受容体型の転写因子であるPPARγはVEGFなどの新生血管促進因子の発現亢進を誘導することによって血管新生を促進することが報告されているが、我々はPPARγが増殖糖尿病網膜症の前房水・硝子体中に含まれるエクソソーム内に対照と比べて有意に高濃度で存在し、VEGF濃度や病期の進行と正の相関を示すことや、増殖糖尿病網膜症の増殖膜においてもPPARγのmRNAの発現が亢進していることを示した。また、2015年にCdk5/ERK回路によるPPARγのリン酸化の制御がインスリン抵抗性の発生機序にかかわっていることが報告された。そこで、このCdk5とERKに着目しCdk5またはERKの活性を抑制することにより増殖糖尿病網膜症における血管新生を抑制できるかを検証するために本研究を立案した。 硝子体手術時に総計140以上の検体を採取済みで、得られた検体を解析するに当たっては倫理委員会での承認を取得し、対象患者からは充分なインフォームドコンセントを得た。黄斑円孔・黄斑上膜(新生血管を含まないコントロール)、増殖糖尿病網膜症の手術時に灌流液を流す前に前房水・硝子体を吸引した後、直ちに-80℃にて保存した。また、黄斑上膜、増殖糖尿病網膜症の増殖膜検体を採取し、免疫染色用検体については直ちにOCT compoundに包埋し凍結させた後、-80℃にて保存した。RT-PCR用の検体についてはトリゾール0.5ccに浸し4℃にて保存した。硝子体検体について前年度に測定したCdk5の活性化サブユニットであるp35に加えて、Cdk5濃度、PPARγ濃度を検索した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究対象である増殖膜と硝子体液の検体は、増殖糖尿病網膜症ならびに黄斑円孔・黄斑上膜(新生血管を含まないコントロール)の硝子体手術時に順調に採取が進んでおり総計140以上の検体を採取済である。 前年度に引き続き、硝子体液の解析を進めており、硝子体液中のPPARγ、Cdk5濃度をenzyme-linked immunosorbent assay (ELISA) kit(LS-F12376-1, LS-F11104-1; LifeSpan Bio- Sciences, Inc., Seattle, WA, USA)を用いて測定した。PDRを有する患者の硝子体液中のPPARγ、Cdk5濃度の上昇は、眼局所でPPARγ、Cdk5が産生されただけではなく糖尿病網膜症に伴う血液網膜関門の破壊により血漿中の成分が漏出して上昇した可能性があるため、この漏出による影響を最小限にするためPPARγ、Cdk5の各濃度は総蛋白質濃度で除した値として評価した。硝子体液中の全蛋白質濃度あたりのPPARγ、Cdk5濃度は、対照患者(69.18 ± 37.21 ng/mg、0.86 ± 0.13 ng/mg)よりもPDR患者(274.26 ± 58.26 ng/mg、5.01 ± 1.54 ng/mg)で有意に高かった(いずれもp<0.001)。以上の結果は研究の目的と照らし合わせると非常に有望なものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
1)令和5年度に引き続き、硝子体切除開始時に灌流液を流す前に硝子体カッターにて硝子体液を採取する。白内障手術併用時には白内障手術の前に前房水を採取する。採取した前房水・硝子体液検体はすぐに-80℃にて保存する。 2)増殖膜および特発性黄斑上膜の網膜前膜(新生血管を含まないコントロール)のヒト手術検体について、PPARγ、Cdk 5、p35、リン酸化ERKタンパク質の発現を確認する。両群のヒト手術検体から凍結切片を作成し、蛋白レベルでの発現パターンについてPARγ、Cdk 5、p35、リン酸化ERK抗体を用いた免疫染色法により比較する。さらに、血管内皮細胞などの特異抗体との免疫二重染色を行い、増殖糖尿病網膜症の増殖膜におけるCdk5、リン酸化ERKの局在について検討する。また、トリゾール処理した増殖膜および特発性黄斑上膜の網膜前膜からRNAを抽出した後cDNAを合成する。Cdk5およびCdk5の制御因子であるp35、ERKに特異的なプライマーを用いた定量的PCR法により、両群におけるCdk5、p35、ERK遺伝子発現を比較検討する。 同時に硝子体手術にて採取した硝子体液や前房水についてリン酸化ERK濃度を測定するとともにCdk5濃度も測定し両者に相関がないかを確認する。また、最近、眼科領域にて抗VEGF抗体による治療が盛んに行われており、増殖糖尿病網膜症手術前に抗VEGF抗体を硝子体内注射し、増殖糖尿病網膜症の活動性を低下させることがある。この抗VEGF療法後の眼内のリン酸化ERK濃度、Cdk5濃度の変化についても解析を行う。
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