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2023 年度 実施状況報告書

口腔粘膜上皮ポラリティの喪失と異型上皮フィールドの成立

研究課題

研究課題/領域番号 22K10203
研究機関日本歯科大学

研究代表者

添野 雄一  日本歯科大学, 生命歯学部, 教授 (70350139)

研究分担者 工藤 朝雄  日本歯科大学, 生命歯学部, 助教 (60709781)
佐藤 かおり  日本歯科大学, 生命歯学部, 講師 (90287772)
田谷 雄二  日本歯科大学, 生命歯学部, 教授 (30197587)
辺見 卓男  日本歯科大学, 生命歯学部, 講師 (20814883)
柳下 寿郎  日本歯科大学, 生命歯学部, 教授 (50256989)
研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワード口腔癌 / 扁平上皮癌 / 早期悪性病変 / 異型上皮 / スフェロイド / オルガノイド
研究実績の概要

口腔粘膜上皮に発症する扁平上皮癌(口腔癌)は、早期に浸潤・転移を起こしやすく、中高年以降の生命を脅かす疾患として早期発見が重要となる。健常な上皮組織には、免疫系を介さず異常細胞を排除する仕組みEDAC(epithelial defense against cancer)が備わっているが、実際には異常化した上皮細胞集団(異型上皮)が粘膜表層に広がって癌の前駆状態となることが多い。我々は、異型上皮が進展する要因として“組織損傷と修復応答の反復”の影響に着目し、上皮細胞の集合体(スフェロイド)やマウス舌粘膜の潰瘍・粘膜炎モデルを用いて、組織修復過程での異型上皮の進展機序解明を目指している。本研究では、特に遺伝子変異を生じた上皮細胞の認識・排除に働く分子機序について検証するとともに、異型上皮フィールド成立に繋がる粘膜上皮環境を明らかにすることを目的としている。
初年度からの2年間では、異型上皮の認識・排除に働く分子のスクリーニングを行うためのin vitroモデルの作出を進めた。粘膜上皮スフェロイドの形成には低接着性培養プレート上で不死化ケラチノサイトを培養することで、小型で安定した形状の粘膜上皮スフェロイドを作製できた。併せて、変異細胞を想定して口腔癌由来細胞株を種々の割合で混合したスフェロイドを作製し、癌細胞株の形質や混合比によってスフェロイド内での混合・排除の違いを示す所見を得ている。スフェロイドをさらに線維芽細胞共存下でハイドロゲルに埋入・培養することにより、上皮-間質環境を再現した粘膜オルガノイドの条件検討も進めた。今後は、予備検討を進めてきたマウス舌粘膜の潰瘍・粘膜炎モデルにおいて、舌側縁部の擦過・剥離細胞からプライマリーの粘膜上皮スフェロイド・オルガノイドを作製し、形質分析と細胞競合実験を行う。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

当初計画していた不死化ケラチノサイトのスフェロイド化に難航し、低接着性培養プレートでの条件検討に時間を要したため、2年目から実施予定であったin vitro実験系での細胞競合現象の検証作業に遅れが生じた。ただし、線維細胞や内皮細胞を共存させたオルガノイド培養も含め、上皮スフェロイドを一定の精度で作出する条件を整備できたことから、当初予定よりも様々な組織環境をin vitro系で再現できる可能性が高まったと捉えている。一方、EDACを想定して実験的に細胞競合を生じうるかを確かめる目的で、不死化ケラチノサイトと口腔癌由来細胞株を種々の割合で混合したスフェロイドの作製・観察は複数種の癌細胞株を用いて実施することができた。培養環境の調整を継続中であるが、細胞形質の違いや混合比によってスフェロイド内で混在している所見や細胞塊から排除されるような所見を得ることができ、本実験系により細胞の相互認識を検証できることが確かめられた。
マウス舌粘膜を対象とした潰瘍・粘膜炎モデルに関しては、課題であった実験操作の安定化を目指して、マウスの保定装置・開口器具を作製して舌の擦過動作を規格化し、実験全体の安定性を高めることができた。擦過用具は、歯科用クレンザーに加えてスチールバーやダイヤモンドポイントも試行し、剥離・回収した細胞のプロファイルの違いや、被験組織のびらん・潰瘍状況に差異があることも確認した。上皮欠損の程度は処置個体間で異なっていたが、処置後3日間での肉眼的な観察では、粘膜上皮のびらん・潰瘍面は周囲との境界が判別できないほど修復されており、組織標本の観察では、炎症反応が残るものの創面の上皮被覆が確認できた。週2回の擦過処理条件で実験継続している。

今後の研究の推進方策

要検討課題であった不死化ケラチノサイトのスフェロイド培養条件について、細胞濃度、培地条件、培養時間を概ね確立できており、今後は不死化ケラチノサイトに変異誘発剤(N-ニトロソ-N-エチル尿素)を作用させて変異株の樹立を進めていく。
変異ケラチノサイトが樹立できた場合、細胞競合現象を検証するために混合スフェロイド培養を進めるが、既存の培養条件が適合しない可能性を考慮して事前に変異株単独でのスフェロイド培養を実施する。作出した変異細胞株スフェロイドに対しては、二次元培養と三次元(スフェロイド)培養を併用して詳細な表現型解析を進める。細胞形質マーカーとして、基本的な細胞接着/骨格分子(CDH1, CD44, CK13, CK14, Vimentin)、EDAC誘因(Ras, Src, ErbB2, YAPの高発現、COL17A1/BP180の発現減少)、EphA2-ephrin-A(排出作用)を予定している。
また、正常ケラチノサイトと変異ケラチノサイト間の競合作用について検証を進める。変異細胞を検出できるよう事前に蛍光標識し、共焦点顕微鏡下でスフェロイド中の三次元的な変異細胞局在パターンを確認する。また、細胞競合作用の検証として、各種細胞のスフェロイドをコラーゲンゲル上で接触させ、境界面での細胞挙動(競合の勝敗)をタイムラプス観察する。
In vivo実験としては、マウス舌粘膜潰瘍―修復モデルを用いて、反復擦過実験(週1回20週継続を計画)を進めていく。擦過に使用した器具から剥離細胞を回収して液化細胞診で異型変化を追跡するとともに、回収した細胞の一部は、基底膜抽出物(BME)に混合してゲル化、培養後、形態解析と遺伝子発現解析を併用して形質変化に関わる分子経路を検索する。舌組織側の形態解析では、マーカー分子の免疫染色/マッピング解析を行って異型上皮フィールドの進展度を比較する。

次年度使用額が生じた理由

【理由】予定していた動物実験を一部見送り、動物個体および関連試薬類の購入が不要となったため。
【使用計画】粘膜擦過モデル実験に供する実験動物および試薬の購入費として計上する。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2023

すべて 学会発表 (3件)

  • [学会発表] リンパ管オルガノイドを用いた癌-間質微小環境の動態評価モデル2023

    • 著者名/発表者名
      工藤朝雄,埴 太宥,川本沙也華,坪崎健斗,村樫悦子,佐藤かおり,田谷雄二,添野雄一
    • 学会等名
      第112回日本病理学会総会
  • [学会発表] 間質オルガノイド環境での口腔癌スフェロイドの表現型・形態解析2023

    • 著者名/発表者名
      工藤朝雄,埴 太宥,佐藤かおり,田谷雄二,添野雄一
    • 学会等名
      第65回歯科基礎医学会学術大会
  • [学会発表] 神経周囲浸潤のメカニズム解明に向けた口腔がんのセマフォリン3関連遺伝子解析2023

    • 著者名/発表者名
      埴 太宥,工藤朝雄,佐藤かおり,田谷雄二,添野雄一
    • 学会等名
      第65回歯科基礎医学会学術大会

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公開日: 2024-12-25  

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