研究課題/領域番号 |
22K11374
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
渡辺 正哉 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 研究員 (90762633)
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研究分担者 |
渋谷 正史 上武大学, その他(学長), 学長 (10107427)
鵜川 眞也 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 教授 (20326135)
植田 高史 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 准教授 (90244540)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 筋痛症 / TRPV1 / VEGFR1 / VEGF-A / 筋硬度評価 / スポーツ障害 |
研究実績の概要 |
我々は,炎症性筋痛の発症メカニズムと関連シグナルの伝達経路の同定を目的に、炎症性筋痛症モデル動物を作出し,その疼痛回避行動分析と薬理学的解析を行った.炎症性筋痛症では,局所が虚血状態に陥るとともに、炎症によって様々なサイトカインの放出が観察される。VEGF-Aは,従来虚血により誘導され、血管新生を引き起こすことが知られているが,近年癌性疼痛や慢性疼痛にも関与することが実験で報告されており,炎症性筋痛症にも関与する可能性があった。そこで我々は,マウスのヒラメ筋膜と深層筋の筋膜間に起炎剤(carrageenan;CA),あるいはVEGF-A_165組換えタンパクを注射し,急性期および亜急性期の筋痛モデル動物を作出して局所におけるVEGF-A遺伝子の発現を解析した.解析の結果,CA処理により局所におけるVEGF-A遺伝子の発現が増加していることが明らかとなった。次に、CAまたはVEGF-A_165を投与した30分後に同じ部位にVEGF受容体の一つであるVEGFR1に対する抗体を投与したところ、その後の疼痛過敏が著しく改善した.一方、VEGFのもう一つの受容体であるVEGFR2に対する中和抗体、あるいはVEGFR2のブロッカーを同じように投与しても鎮痛効果は限定的であった.さらに,TRPV1 拮抗剤(capsazepine)を同部位に事前投与すると、VEGF-Aによって誘発された疼痛過敏が抑制された.これらの結果から,炎症性筋痛症の急性期および亜急性期において、VEGFR1とTRPV1を介した新たな侵害受容経路があることが示唆された(NeuroReport, 34, 2023). この成果は,アスリートはもとより,多くのスポーツ愛好家にも生じる筋痛症の発症メカニズムの解明につながり,VEGFR1が新規治療ターゲットになりうることを示唆するものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回我々は炎症性筋痛症の痛覚過敏にVEGF-AおよびVEGFR1が関与することを示した。しかしながら、ヒトでみられる筋痛症および筋・筋膜疼痛症候群(myoficial pain syndrome, MPS )には,筋硬結(taut band, TB)と呼ばれる筋組織に起こる特徴的徴候が存在する.先行研究においてもこの点が注目されており,これらの成因と痛みとの関係を解明することを次の研究目的に掲げ、現在炎症性筋痛におけるTBおよび関連痛について解析を進めている。すでにいくつか候補分子が挙がっているものの,いかにヒトに近いTBをマウスで再現するかが鍵となるため,現在試行錯誤で実験を進めている. 一方,これに関連して,臨床研究では,大学野球部投手における野球肘と肘関節周囲筋の筋硬度との関係について調査した.野球肘に罹患している患者では,肘関節内側靭帯の疼痛だけでなく肘関節周囲筋の運動痛による投球障害を呈する.我々は,肘関節内側靭帯と周囲筋の硬度を超音波エラストグラフィーを用いて測定したところ,肘関節内側支持機構である尺側側副靱帯の硬度と尺側手根屈筋の筋硬度の間で強い相関があることが認められ,筋膜を介した靭帯と筋の機能的連続性と筋硬度の関連性があることを示した[日本超音波骨軟組織学術研究,21(2), 2022].
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今後の研究の推進方策 |
Jinらは,筋・筋膜疼痛症候群(myoficial pain syndrome, MPS)に罹患している患者の筋硬結(TB)を対象に生検を行い,その組織像に筋線維の増大と球状化が観察されることを報告している (Eur J Pain. 2020;24:1968-1978). そこで,まず,我々の炎症性筋痛モデルにおいてこの所見が観察されるかどうかを確かめたい.さらに,林らの遅発性筋痛モデル(delay onset pain model, DOMS)[J Pain, 2011;12(10):1059-68]等の筋痛モデルを作出し,筋原線維の形態的および病態生理学的変化について検証して,Jinらが示したヒトで観察されるTBに近い構造をもつモデル動物を確立させた後、この成因について調べていきたい. 臨床研究では,投球障害を高める原因としてのTBと関連痛との関係について検証を進めていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
動物の疼痛行動評価にこれまで使用していたvon Freyテストではなく筋圧痛評価にするのか他の評価方法を使用するのかを決定できなかった. 炎症性筋痛モデルだけでなく, 遅発性筋痛モデルの作出等についての議論が必要と考えた.
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