研究課題/領域番号 |
22K11616
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研究機関 | 新潟医療福祉大学 |
研究代表者 |
越中 敬一 新潟医療福祉大学, 健康科学部, 准教授 (30468037)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | エネルギー代謝 / 水 / 骨格筋 / グリコーゲン / インスリン |
研究実績の概要 |
本研究では、骨格筋のエネルギー代謝において直接的なエネルギー基質ではない「水」に着目し、水分子の動態の変化による代謝調節機構の解明、特に糖質・蛋白質代謝を中心に、インスリン作用との相互関係において検討している。In vitroとin vivoの両実験系において、骨格筋細胞に浸透圧刺激によって細胞内外に水分子を流出・流入させ、それぞれshrinkageとswellingを誘発させた。初年度において、in vitroの実験系により蛋白質代謝においてはshrinkageとswellingは共に蛋白質の分解を促進することを認めたが、本年度はさらに糖代謝について検討を進めた。その結果、shrinkageは糖取り込みやグリコーゲン分解を促進する半面、swellingはそれらを誘発しないなどの相違点を認めた。また、in vitroにおいてshrinkageを引き起こした際、インスリン作用を増強させる機能を有するとされるAMP-activated protein kinase (AMPK)が活性化していたことから、刺激終了の2時間後においてインスリンによる糖取り込みを測定してインスリン作用を評価した。その結果、AMPKが活性化していたにも関わらずインスリン作用に変化を認めなかった。同様に、in vivoの実験系においてshrinkageを引き起こして2時間後にインスリン作用を評価したところ、in vitroの際と同様にインスリン作用は増強しなかった。一方、in vivoの実験系においてswellingを引き起こしてインスリン作用を評価したところ、インスリン作用が減弱することを確認した。In vivoとin vitroの実験によって先行研究とは異なる多くのエビデンスを蓄積することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度(2年目)においては、一部予定を最終年度に移したが、概ね計画書通りに進んでいる。細胞の水分子の動態の経時的変化にともなう細胞内の情報伝達分子の変化など、糖質と蛋白質代謝に関連した多数の分子の動態を確認することができた。また、swellingとshrinkageによって生じる細胞反応が逆にならない事に加え、それぞれによって固有に誘発される反応を確認した。このことは、特異的な生理学的状況に対してswellingとshrinkageが個別的に機能している可能性を示している。今年度からin vitroの実験に加え、予定通りin vivoの実験を開始した。これまでにin vivoにおける骨格筋細胞のswellingとshrinkageに関する研究は存在しないことから、貴重な結果を回収することができた。一方、in vitroとin vivoの実験系で異なる結果が一部に生じていることから、結果の回収と整理に時間を要している。また、インスリン作用に関して、現在のところ細胞内の水分量の変化によってインスリン作用の増強効果を誘発するには至っておらず、むしろインスリン抵抗性を示す条件が存在する結果を得ている。関連して、細胞内の情報伝達分子の動態が時間依存的であるため、追加のサンプリングポイントを設定するなど、実験条件の再検討が一部必要である。本年度、我々は上記の一連の結果が筋線維組成の違いによっても相違が生じることを認めた。このことは、AQP4などの、筋線維組成に特異的な蛋白質量の違いによって生じている可能性を提示している。 上記の進捗状況における点を含め、最終年度の検討課題とする予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験によって、swellingとshrinkageによって細胞内のエネルギー代謝が変化することを認めた。最終年度においてはそれらの変化が有する生理学的重要性や役割を明らかにする予定である。 筋収縮やインスリンは骨格筋において糖取り込みを促進する主要な刺激である。筋収縮は急速に骨格筋細胞にswellingを引き起こすこと、また、骨格筋以外の細胞においては、インスリンがswellingを引き起こすことが報告されている。そこで、水分子の細胞内外の移動に関与するAQP4の阻害剤によって、筋収縮とインスリン刺激による急性の糖取り込みが阻害されるか否かを検討する。筋収縮は筋収縮の終了数時間後に骨格筋のインスリン作用を増強する。そこで、AQP4の阻害剤が身体運動後に生じるインスリン作用の増強効果を抑制するか否かを検討する。関連して、身体運動後のインスリン作用の増強効果は、身体運動後に生じる筋グリコーゲンの超回復に関与する。よって、AQP4の阻害剤が筋グリコーゲンの超回復に与える影響も合わせて検討する。 以上の研究と関連する分子動態を合わせて検討することにより、研究本題である身体運動によって生じる運動後のインスリン感受性の亢進作用における水分子動態の関与を明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
進捗状況に記載した通り、本年度は仮説とは違う結果が生じており、実験モデルやサンプリングポイントなど、軽微な修正と関連した追加の実験を行ってきた。その結果、概ね研究は予定通りに進んでいるものの、本年度に予定していたAQP4に関する実験は最終年度に行うことになった。そのため、試薬購入のための予算を次年度に引き継ぐことにした。
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