研究課題/領域番号 |
22K13036
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
有澤 知世 神戸大学, 人文学研究科, 助教 (70816313)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 江戸戯作 / 元禄 / 近松門左衛門 / 山東京伝 / 松浦静山 / 考証 / 雰囲気学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、「元禄」を鍵語とし、近世後期~昭和期における考証趣味のネットワークの内実の解明および、考証の成果と文芸作品との関係について明らかにすることで、新たに考証趣味を視座とした文芸史観を形成することである。設定した三つの小テーマ(A.『画師姓名冠字類鈔』を手掛かりとした考証趣味のネットワークの研究B.近世後期俗文芸における「元禄」についての研究C.明治以降俗文芸における「元禄」についての研究)のうち、今年度は特にA、Bに重点的に取り組んだ。 Aの成果としては、平戸藩主の蔵書コレクション調査をふまえ、江戸の戯作壇と、平戸九代目藩主の松浦静山との交流について、長崎奉行を勤めた江戸の文化人・大田南畝の動向を手掛かりにして論じ、近世後期の知のネットワークを明らかにした「平戸・松浦史料博物館蔵の江戸戯作」(シンポジウム「海港、軍港と人文学」における口頭発表)があげられる。 Bの成果としては、元禄文化を代表する近松門左衛門の浄瑠璃「津国女夫池」が先行する浮世草子を利用していることを指摘した上で、19世紀の戯作者山東京伝の作品における「津国女夫池」摂取の在り方を論じた「「津国女夫池」三段目小考―『一夜船』との比較を手掛かりに―」(『同志社国文学』98号)がある。 さらに、こうした近世後期の文化人たちの自己表現について迫り、彼らの営為を社会的に位置づけた「自序に登場する〈作者〉―山東京伝の戯作から―」(シンポジウム「近世俗文芸の作者の”姿勢(ポーズ)” 」における口頭発表)が、また、本研究の特色である学際的な研究成果としては、近世期に流行した心学を、当時の戯作者がどのように理解し可視化したのかを、「雰囲気」という哲学的な視点を援用して論じた「近世日本文学と雰囲気学―近世絵本にみる「心」と「魂」と身体―」(シンポジウム「EAST WEST ATMOSPHERES」における口頭発表)がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
表現と、それを支える知のネットワークの在り方について、哲学や地理学的、思想史学な視点も取り入れつつ研究した結果、当初の予定よりもより多角的な観点から研究テーマへのアプローチができている。また、日本文学研究の領域以外で口頭発表を行うことで、より学際的な視点に基いた意見交換が可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
近世期・明治期における絵画史研究についてのアプローチを進め、小テーマAについての考察を深めるとともに、引き続き、京伝や近松作品を中心に小テーマBについても研究を進める。また、近世後期の文化人の随筆類に加え、明治の絵師・鏑木清方の随筆などを手掛かりとして、小テーマCについても進めてゆく。
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