研究実績の概要 |
本研究の主な目的は, (i) 日本語の束縛的意味を表す複合的な法助動詞相当表現の意味を構成的に導出し, これらの表現が束縛的意味を表す理由を明らかにすること(例:「ほうがいい」, 「してもいい」,「してはいけない」 ), (ii) これらの表現の一部が否定極性を示す理由を明らかにすることである(例:「してはいけない」 vs.「*してはいい」) . 本年度は, (ii) の否定極性に関する分析を進めるための準備として,「てはいけない」に含まれる対照主題を表す「は」に着目した. まず, 「は」 がとりたて表現の「まで」と共起した際に生じる否定極性に関して分析を行った. そして, 「は」と「まで」が相反する前提を導入し, これらの前提を同時に満たすためには否定辞の存在が必要になることから, 否定極性が生じることを明らかにした. さらに, 「は」と「まで」が共起することによって生じる否定極性が, 通言語的に見て新たなタイプの否定極性であることを示した. 次に, 対照主題を表す「は」を含む, 段階形容詞の解釈に必要な比較基準を導入する表現である「ては」に着目した(例:「ジョッキーにしては,背が高い」). そして, この表現によって導入される比較基準や, この表現と共起する段階形容詞には一定の制限があることを明らかにし, この事実が対照主題の「は」によって導入される前提から生じる可能性があることを示した.
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