研究課題
本研究課題の主な目的は,(i)日本語の束縛的意味を表す複合的な法助動詞相当表現の意味を構成的に導出し,これらの表現が束縛的意味を表す理由を明らかにすること(例:「ほうがいい」, 「してもいい」,「してはいけない」 ), (ii)これらの表現の一部が否定極性を示す理由を明らかにすることである(例: 「してはいけない」 vs.「*してはいい」).本年度はまず, 昨年度に引き続き,(ii)の否定極性を示す日本語の束縛的意味を表す複合的法助動詞の分析を進めるために,当該の表現に含まれる対照主題を表す「は」が「まで」と共起した際に生じる否定極性に関する分析を行なった. さらに, 否定辞との作用域に関して,「まで」が「だけ」などの他のとりたて表現とは異なる振る舞いを示す事実に対して,これらの表現が代替表現を導入する方法が異なるという点から説明できる可能性があることを明らかにした.次に, (ii)の複合的法助動詞の分析に関わる, 対照主題を表す「は」を伴う段階形容詞の解釈に必要な比較基準を導入する表現である「ては」の分析を昨年度に引き続き行った. 昨年度の研究によって,この表現が導入する比較基準と,この表現と共起する段階形容詞には一定の制限が存在することが明らかになっていたが,この事実に対して「は」が導入する尺度前提と, 「ては」が固有名詞と共起した場合にその固有名の対応者(counterpart)が導入されるとすることで説明が与えられることを示した.
2: おおむね順調に進展している
昨年度と今年度の研究によって,対照主題を表す「は」が否定極性を生じさせる理由と,段階形容詞の解釈に対してどのように影響を及ぼすかが明らかになり,否定極性を示す複合的法助動詞の分析に必要な知見が得られたため.
束縛的意味を表す複合的法助動詞に含まれる条件節について,形式意味論の分野で提案されている代表的な2つの分析のうち, どちらを用いるのが妥当であるかを検討していく.
円安の影響を考慮し,2024年度に参加する国際学会の旅費を確保するため.
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 オープンアクセス 3件、 査読あり 3件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件)
Japanese Korean Linguistics
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