研究課題/領域番号 |
22K14345
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
西堀 泰英 大阪工業大学, 工学部, 准教授 (80531178)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 高齢運転者 / 交通安全対策 / 先進安全技術 / 無関心層 / 心理的方略 / 運転免許返納 / サポカー限定免許 / 行動経済学 |
研究実績の概要 |
高齢運転者の交通事故への関心が高まる中,高齢運転者対策の一環として高齢者講習や認知機能検査の他,安全運転サポート車(サポカー)やサポカー限定免許の普及促進などの高齢運転者対策が実施されている.交通安全に関心が高い人は安全対策を利用してより安全になる一方,交通安全に関心が低い無関心層にも安全対策の利用を促す必要がある.本研究では,アンケート調査結果を用いて無関心層の特徴を明らかにし,無関心層に対する効果的な安全対策の利用促進策を検討する. 2023年度には,2022年度に実施した無関心層の特徴を把握するためのWebモニターアンケート調査の結果を踏まえて,無関心層に行動変容を促すための情報提供方法を行動経済学の手法を取り入れて策定した.次に,策定した情報提供方法の効果を評価するため,Webモニターアンケート調査により情報提供を試行した.回答者の中に無関心層を一定数取り入れるため,対象者のスクリーニング調査の段階で無関心層を判別する質問を行うことで,高齢運転者(回答数1万人)に占める無関心層の実態を把握した.無関心層に対する情報提供の試行(回答数1.7千人)は,行動変容を促す群(施策群)と比較のために何もしない群(制御群)を設定し,それぞれの差を比較して評価した. その結果,サポカーを利用者は高齢運転者全体の約2割であり,サポカー非利用者でサポカーへの乗換意向を持つ人は約4割,非利用者で乗換意向を持たない人は約4割であった.また,サポカーへの乗換意向を持つ人は,人々の損失回避傾向に働きかけるプロスペクト理論を用いた情報提供が,比較的乗換意向を持ち続ける効果があると言える結果が得られた.また,サポカーへの乗換意向を持たない人に対しては,プロスペクト理論とバンドワゴン効果の2種類の普及促進策に明確な差は認められなかった.高齢運転者の特徴と情報提供手法の違いによる効果を明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究着手前に作成した計画に沿って研究を進めてきたが,やや遅れている. 2023年度は,前年度に実施したWebモニターアンケート調査の結果を踏まえて,無関心層に行動変容を促すための情報提供方法を行動経済学の手法を取り入れて策定した.その過程で得た知見を,第67回土木計画学研究発表会(2023年6月),Euro Working Group on Transportation 2023(EWGT2023)(2023年9月),自動車技術会2023年秋季大会(2023年10月)で発表した.また,Transportation Research Procedia Vol.78と,自動車技術会論文集55(2)に,2本の査読付き論文が登載された. 次に,情報提供方法の効果を評価するためのWebモニターアンケート調査を,対象者のスクリーニングのための調査を1万人に行い,その後,策定した情報提供方法を試行するための調査を,1,677人(計画時は回収数1千人を予定)を対象に実施した.独立基盤形成支援助成金をいただけたことで,回答者数は当初計画よりも多く集めることができた.得られたデータを用いて,第69回土木計画学研究発表会に投稿し,2024年5月に発表する予定である. 以上のような成果が得られてはいるものの,研究を実施していく中において,2022年度に実施したWebモニターアンケート調査結果から無関心層の特徴を明らかにすることに時間を要したことで,無関心層に行動変容を促すための情報提供方法の策定が遅れ,2023年度に実施するWebモニターアンケート調査計画やそれに伴う学内の倫理委員会での審査時期を変更する必要が生じた.その調整に予想外の日数を要したため,研究の進捗がやや遅れていると評価する.
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は,2023年度に実施したWebモニターアンケート調査の結果を用いた分析をさらに深め,安全対策の普及促方法案を策定する.高齢運転者への接触方法(例えば免許更新時講習,自治体の講習,高齢者団体の集まり等),提供する媒体,媒体に記載する内容を固める.進捗がやや遅れていることもあり,アンケート結果の分析に時間を要すると見込まれることや,高齢運転者への接触方法を検討する際も,相手のあることであり時間を要する可能性がある.そのため今後の研究の推進計画は慎重に検討を行う. また,2023年度に実施したWebモニターアンケート調査(事前調査)の追跡調査として,事後調査を実施する.実際に安全対策を利用したか,未利用でも安全対策利用意向に変化がないかを質問し,情報提供時の利用意向の実施状況や意向の変化の有無等を実証的に検証する. さらに,策定した安全対策の普及促進手法案を,ヒアリング調査等により高齢運転者を対象に試行する.対象者の抽出はWebモニターを通じて行うなどの方法を検討する.試行には策定したチラシ等のツールを用いる.ただし,この試行にあたっては,高齢運転者への接触方法の検討結果や,Webモニターアンケート調査による事後調査による情報提供効果の実証的検証結果を踏まえてヒアリング方法や提示資料等を検討することから,この調査の実施時期についても慎重に検討を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究経費の内定額が応募額より減額となり,アンケート調査規模を計画よりも縮小せざるを得ず,統計的な信頼性を担保できなくなることが危惧された.そこで,独立基盤形成支援(試行)の助成を申請し,採択された.その結果,研究経費から支出する計画だった費用を,独立基盤形成支援の助成金から支出したために当初計画と差額が生じた. 2024年度は,Webモニターアンケート調査や複数の学会発表を予定している.次年度使用額は,今後の研究推進方策に記載した内容を踏まえて使用する計画である.
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