本研究では走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いて、セラミックス粒界移動過程における原子レベル直接観察を試みることにより粒界移動メカニズムの解明を目指す。当該年度ではまず異種元素偏析が粒界移動に及ぼす影響について研究を行った。本研究では不純物としてTiを選択し、バイクリスタル法を用いてTiが偏析したAl2O3モデル粒界を作製した。昨年の研究により確立した電子線照射条件を用いて、電子線をAl2O3結晶粒の片側に照射し、粒界移動の励起を試みた。しかしながら粒界は移動せず、Al2O3単結晶のみがダメージされた。この原因を解析するため、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて粒界の化学組成を解析した。その結果、Tiは粒界コアを含む約1nm幅にて偏析が発生しており、粒界コアにおいてTiの酸化物が形成されることがわかった。したがって、このようなTiの化合物が粒界の移動を妨げていると考察できる。また、本研究ではSrTiO3、CeO2およびイットリア添加ZrO2(YSZ)モデル粒界を作製し、電子線照射による粒界移動直接観察を試みた。Al2O3粒界移動観察の電子線照射条件を用いて観察を行った結果、Al2O3以外での酸化物では粒界移動が発生しなかった。加速電圧や電流量を系統的に変化させ観察を繰り返した結果、SrTiO3では結晶がダメージしやすく、観察中に電子線照射による試料の破壊が確認された。一方CeO2とYSZは電子線照射に鈍感であり、電子線照射条件に依存せずダメージが極めて低いことが分かった。したがって粒界移動を励起するには、電子線と物質の相互作用をさらに理解し物質に依存した電子線照射条件を探索する必要があり、さらなる研究が必要であることがわかった。
|