ナトリウムイオン輸送型NADH-キノン酸化還元酵素(NQR)は、基質の酸化還元と共役してナトリウムイオンの能動輸送を行う膜タンパク質複合体である。NQRはコレラ菌(Vibrio cholerae)などの多くの病原性細菌の生育に必須であり、機能の類似した哺乳類ミトコンドリアのプロトン輸送型NADH-キノン酸化還元酵素(呼吸鎖複合体-I)とは構造的にも進化的にも異なるため、病原性細菌に対する有望な創薬標的として注目されている。本研究では、NQRによる基質の酸化還元とナトリウムイオン輸送の共役メカニズムを調べるため、様々な側鎖構造を有するキノン類を合成し、活性を評価した。活性評価にはコレラ菌由来NQRを再構成したプロテオリポソームを用い、キノン類ごとの還元活性と膜電位形成を測定した。その結果、炭素鎖が3つよりも短い側鎖を有するキノン類では還元は観察されるにも関わらず、ナトリウムイオンが輸送されないことがわかった。この知見は、キノンの側鎖構造がナトリウムイオン輸送に決定的な役割を担っていることを意味するものであった。 また、基質の酸化還元とナトリウムイオン輸送の共役メカニズムを明らかにするために、NQRの構造をcryo-EMを用いた単粒子解析法による構造解析を実施した。その結果、3.1Å分解能で構造を決定した。さらに、コロルミシンAやオーラシンD42というNQRの強力な阻害剤が結合したNQR構造もそれぞれ2.9Å、3.0Å分解能で決定した。
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