豚インフルエンザウイルス (SIV) は、8本の分節RNAをゲノムに持つ。一個体が複数のSIV株に同時に感染した場合、分節単位での遺伝子交雑 (遺伝子再集合)により、異なる性状を持つSIV変異体が出現する。豚インフルエンザは、豚呼吸器複合病 (PRDC) の原因となるものの、養豚場内におけるSIVの感染伝播様式は未だ分かっていない。そこで、本研究では、口腔液を検体とした簡易なSIV分離法を新たに確立し、養豚場内におけるSIVの流行動態を把握することを目的とした。本研究では、ロープを用いて豚から口腔液を採材する手法を確立した。離乳豚舎における複数の豚群の口腔液を毎週回収し、SIV、豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)、および豚サーコウイルス(PCV)の遺伝子検出を実施した。また、各ウイルス株の分離を試みた。さらに、咳やくしゃみの呼吸器症状の臨床スコアを評価し、各病原体と臨床症状の関連性を調べた。SIVの分離を試みたところ、H1N1亜型とH1N2亜型のSIVをそれぞれ1株分離に成功し、2株のH1N2亜型のSIV遺伝子が検出された。加えて、咳の臨床スコアが上昇する直前にSIV遺伝子が検出されたことから、SIVが早期の呼吸器症状の原因となり得ることが示唆された。 SIVの様々な系統のウイルスに対する中和抗体価を測定したところ、保有する抗体の種類や抗体価の違いから、複数のSIVが1農場で流行することが明らかとなった。
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