研究課題/領域番号 |
22K15100
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中津 大貴 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (30781299)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 癌化 / 上皮細胞 / タイトジャンクション / トリセルラータイトジャンクション / ピルビン酸産生酵素 / キナーゼ / 細胞接着 / バイオインフォマティクス |
研究実績の概要 |
癌による年間死者数は日本だけでも数十万人と推定されている。また、高齢化の進展による発症率の増加から、今後患者数、死者数とも大幅に増えると予想されている。タイトジャンクションは複数のタンパク質や脂質で構成される構造体で、上皮細胞同士を接着する機能を持つ。そして、同機能が癌化した上皮細胞の増殖や浸潤といった悪性化の原因を抑制すると示唆されている。トリセルラータイトジャンクションは、三細胞接触点に形成されるタイトジャンクションで構成タンパク質の局在化が正常な機能発現に必須であるが、局在化の制御機構の多くは未知である。研究者らは先行研究で、ピルビン酸産生酵素であるPKM1が、構成タンパク質であるLSRとTricellulinのトリセルラータイトジャンクションへの局在化を促進することを発見した。また、局在化の促進が、二細胞接触面に形成されるタイトジャンクションであるバイセルラータイトジャンクションへのLSRとTricellulinの局在化の抑制を介して行われることも明らかにした。 そして本研究では、マウス乳腺由来癌化上皮細胞であるEpH4細胞を用いて上記のメカニズムの解明を進めている。そして、バイオインフォマティクスの技術を用いた論文やデータベース情報の解析によるメカニズム推定と実験的な検証から、PKM1がチロシンキナーゼPYK2の発現量を増加させることで、トリセルラータイトジャンクションへのLSRとTricellulinの局在化を促進することを明らかにした。また、PKM1による遺伝子発現量の調節因子であるSMAD4の不活性化がPYK2の発現量増加の要因であること、SMAD4の不活性化が277残基目のチロシンのリン酸化抑制にあることも確認した。また、トリセルラータイトジャンクションの形態形成と正常な機能発現が、癌化上皮細胞の増殖に与える影響の分析にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画で掲げた研究目的の1つは、上皮細胞の三細胞接触点の接着装置であるトリセルラータイトジャンクションへの構成タンパク質の局在化を、ピルビン酸産生酵素PKM1が調節する機構の解明である。そして、もう一つの研究目的は、構成タンパク質の局在化によるトリセルラータイトジャンクションの形態形成促進が、癌化上皮細胞の増殖や浸潤に与える影響の解明である。それらのうち、(1)はおおむね達成出来、(2)も一部達成出来ている。そのため、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、マウス乳腺由来癌化上皮細胞(EpH4細胞)を用いて、PKM1がトリセルラータイトジャンクションへの構成タンパク質の局在化を調節する機構の解明に取り組んでいる。また、同調節が癌化上皮細胞の増殖や浸潤に与える影響の解析も併せて進めている。 今後の研究では、はじめに、EpH4細胞を用いて上記の未解明部分を明らかにする。 その後、EpH4細胞で確認された現象が、他の癌化上皮細胞でも同様に見られるかを検証する。具体的には、トリセルラータイトジャンクションへの構成タンパク質の局在化調節機構や、トリセルラータイトジャンクションへの構成タンパク質の局在化調節が癌化上皮細胞の増殖や浸潤に与える影響が、EpH4細胞以外の癌化上皮細胞でも同様かを、確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
PKM1が、乳腺由来癌化上皮細胞のトリセルラータイトジャンクションへ、構成タンパク質を局在化させるメカニズムの解明が、予想よりも少ない実験で進めることが出来た。そのため、経費の使用額が少なくなった。上記の経費は、乳腺由来癌化上皮細胞での、トリセルラータイトジャンクションへの構成タンパク質局在化メカニズムが、他組織由来の癌化上皮細胞でも成り立つかの検証に使用予定である。
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