熱帯熱マラリアは特に重症化しやすく、原虫への反復感染後も有効な獲得免疫が獲得されにくいことから、熱帯熱マラリア原虫による積極的な宿主免疫逃避機構が示唆されてきた。これまでの研究代表者らの研究で、熱帯熱マラリア原虫由来のRIFINと呼ばれる赤血球表面抗原がヒト免疫細胞上の複数の抑制化受容体と結合し宿主免疫細胞応答を抑制することで、積極的な免疫逃避機構を持つことが明らかになった。RIFINとは、熱帯熱マラリア原虫ゲノム上で最大の多重遺伝子ファミリーを形成する分子であり、一原虫あたり150種類以上のRIFIN遺伝子が存在する。しかし、RIFINの相互排他的発現様式により、RIFINの網羅的機能解析は非常に困難であり、ほとんどのRIFINの機能は不明なままであった。 これに対して研究代表者は、RIFINの構造的特徴に着目し、熱帯熱マラリア原虫実験室株由来のほぼ全RIFINをカバーするRIFIN expression libraryというシステムを独自に樹立した。このlibraryを用いたRIFIN-免疫受容体相互作用の網羅的解析により、複数のRIFINがNK細胞受容体であるKIRと結合することを明らかにした。KIRは抑制化・活性化受容体からなるペア型受容体であるが、今回同定したKIR結合RIFINの中には、抑制化・活性化受容体の両方に結合可能なRIFINも存在していた。ヒトNK細胞を用いた機能解析により、これらのKIR結合RIFINは抑制化・活性化受容体を介してNK細胞にそれぞれ抑制化・活性化シグナルを誘導することがわかった。さらに、RIFIN-KIR複合体の結晶構造解析により、RIFINはユニークな結合様式でKIRと結合し、その結合活性は既報のリガンドと比較して最も強力であることが明らかとなった。以上の結果から、研究代表者はKIRの病原体由来リガンドとしてRIFINを同定した。
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