本研究課題では、膵β細胞における低酸素誘導因子として新たに同定した転写抑制因子であるBHLHE40と水酸化酵素であるPHD3について、これらの因子が膵β細胞の低酸素応答においてどのような役割を果たしているのかを明らかにすることを目的としている。 最終年度である2023年度には、PHD3の働きを中心に検討を進めた。予備的検討から、PHD3はインスリンシグナル経路中のセリンスレオニンキナーゼで細胞増殖・生存に重要なAKTに結合することが判明している。そこでAKTがPHD3による水酸化反応の標的因子であるかどうかを検討した結果、PHD3を過剰発現した細胞中ではAKTの水酸化が増加していることが明らかになった。さらにプロリン水酸化活性を欠損させたPHD3変異(H196A)を導入した膵β細胞株を作成し、低酸素下における細胞増殖を検討した結果、PHD3が低酸素下においても細胞増殖能を維持させる働きがこの変異体では見られなくなることが明らかになった。 研究期間全体を通じ、膵β細胞の低酸素応答におけるBHLHE40の役割や分子メカニズムとして、(1)BHLHE40がインスリン分泌に必須なMAFA遺伝子の発現を抑制する分子メカニズムを明らかにした。(2)BHLHE40がミトコンドリア量やミトコンドリアにおけるATPの産生の制御に関与していることを明らかにした。PHD3については、(3) 低酸素下の膵β細胞においてAKTを水酸化することで細胞増殖を維持する働きがあることを明らかにした。
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