シュワン細胞は末梢神経の髄鞘を形成し、その機能障害は神経軸索の障害を引き起こす。末梢神経軸索の傷害の際、軸索と共にシュワン細胞も変性し、軸索の再生・伸長過程でシュワン細胞も回復する。その際、未成熟なシュワン細胞が増殖し、その後分化、そして軸索上で髄鞘形成する。髄鞘形成には種々の細胞内シグナル分子が関与し、リン酸化酵素SGK1も関与していることが示唆されているが、詳細は分かっていない。そこで、本研究では末梢神経損傷時のシュワン細胞におけるSGKの役割を検討した。まず、成体マウス(7-10週齢、雄)の右坐骨神経の挫滅により翌日右後肢の障害が認められた。挫滅5日後には障害の有意な回復が認められたが、電子顕微鏡での形態学的な変化は観察された。その際、挫滅部位の末梢側で未熟なシュワン細胞であるGFAP陽性の細胞が観察され、それらの細胞にSGK1の発現が認められた。続いて、ラットのシュワン細胞株であるS16細胞においてSGKの阻害剤を投与すると細胞増殖は抑制された。また、SGK阻害剤の投与により細胞質の面積が約2倍に増大し細胞が巨大化していた。さらに阻害剤の細胞機能における効果を調べたところ、未成熟なシュワン細胞のマーカーであるSox10は減少し、神経再生や髄鞘形成に関与するBDNF、MBP、Krox20の遺伝子が増加した。 これらのことから、SGKの活性低下によりシュワン細胞は細胞増殖から髄鞘形成への転換に関与する可能性がある。
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