研究実績の概要 |
手・膝等の伸縮錯覚は身体部位が伸び縮みする視覚刺激と共に, その部位を押す/引っぱる圧覚刺激を同時に付与することで, 強固な伸縮錯覚及び疼痛抑制効果を誘起する. 視覚提示のみによっても伸縮錯覚の誘起は可能とされるものの, その錯覚強度は視覚-圧覚の同期を用いたものよりも劣ることが示されている. しかしながら, 圧覚を用いる場合には患部に圧を加える補助者が必要となるため, 実用面におけるハードルが高いことが懸念される. また, 疼痛治療においては痛みのために患部に触れること自体が困難な場合もある. よって, 簡易で強固な伸縮錯覚を誘起するためには, 圧覚に代わる, 視覚と同期可能な他の刺激提示が必要となる. 簡易な伸縮錯覚の誘起環境として, 市販のHMDによるバーチャル空間を利用することが考えられる. 近年, HMDのカメラを用いたハンドトラッキング機能により, バーチャル空間上の手が本物の手の動作と同期して動く様子を提示することが可能となった. 伸縮錯覚に密接な関わりがあると考えられる身体所有感に関する実験においても, 体験者自身の能動的な運動が錯覚強度を強化することが知られている. そこで, 本年度は体験者自身の能動的な運動意思が伸縮錯覚の強度にどのような影響を及ぼすのかを明らかにするため, 身体部位に対する受動的・能動的行為の条件を比較する伸縮錯覚誘起実験を行った. 具体的には, バーチャル空間上にて人差し指の伸縮イメージを提示する際, 自身で指を伸ばすジェスチャーを用いた入力とボタンによる入力(能動的入力), 他者によって指を引っ張られる入力(受動的入力)を行った際に得られる伸縮感について比較を行い, 結果として, 伸縮錯覚の能動的運動による誘起に関しては身体所有感以上に運動主体感による影響が大きい可能性があることが示唆された.
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