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2023 年度 実施状況報告書

ケニアのマサイ社会におけるリプロダクションにかんするジェンダー人類学的研究

研究課題

研究課題/領域番号 22K18082
研究機関大阪公立大学

研究代表者

林 愛美  大阪公立大学, 大学院現代システム科学研究科, 学振特別研究員(CPD) (80837633)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2026-03-31
キーワード女性器切除 / ジェンダー開発 / FGM廃絶 / リプロダクション(性と生殖) / 家族 / 結婚
研究実績の概要

本研究は、ケニアに暮らす牧畜民マサイ(Maasai)のリプロダクション(生命の再生産)の全体像を記述し、グローバルな女性器切除(Female Genital Mutilation: FGM)廃絶言説の根底にある「なぜ彼女たちはFGMを行うのか」という問いに取り組む。マサイの妊娠・出産文化については、民族誌に断片的な記述が見られるのみで、全体像は明らかになっていない。本研究は、「性と生殖」および「家族」という課題を設定し、人類学のリプロダクション研究を援用しつつ、現地調査を通じてリプロダクションの基礎研究に取り組み、グローバル時代におけるマサイのセクシュアリティと生に迫る。本研究の目的は、フィールドワークを中的な手法とし、牧畜民マサイのリプロダクションの全体像を記述することである。申請者はこれまで、ケニアのマサイ社会を対象に、通過儀礼としておこなわれてきたFGMについて研究してきた。その過程で、FGMとリプロダクションが密接な関係をもっている事例に幾度も遭遇した。近年、FGMは法律で禁止され、ローカルなFGM廃絶運動が浸透している。その中でもマサイの女性たちは、儀礼の形を変え、FGMを地下化させながら慣習を根強く維持している。「なぜマサイの女性たちはFGMを続けるのか。」この問いに取り組むにはFGMが出産の秩序と深い関わりを持っていること、つまりリプロダクションについての詳細な研究を行う必要がある。マサイの妊娠・出産文化の全体像は明らかになっていない。したがって本研究では、詳細な現地調査に基づきマサイのリプロダクションの全体像を記述することを目指す。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

2023年度は、感染症の状況及びケニア大統領選挙に伴う治安状況が落ち着いたことから、ケニアの首都ナイロビにあるアメリカ国際大学アフリカ校を受入研究機関として、特別研究員CPDとしての主要渡航研究を開始した。それに伴ってケニアに半年間滞在し、首都ナイロビとマサイの暮らすケニア西部を往復しながらフィールドワークを実施した。
首都ナイロビではFGMを中心としたジェンダー暴力に対してアプローチしているNGOにて聞き取り調査を実施するとともに、2023年10月にはジェンダー暴力の研究に取り組むケニアの法学者、政治学者らと共に在ケニア日本大使館にて国際セミナー「Journey Towards Gender Equality in Kenya: Exploring the Intersection of Gender, Law, and Custom」を開催し、女性に抑圧的な慣習法という観点からFGMについての議論を行った。
ケニア西部のフィールドでは、「家族」に関わる事例として花嫁代償(婚資)を納める儀礼の調査を、「性と生殖」に関わる事例として男子の割礼儀礼の調査を実施した。婚資の調査結果については、2024年2月に東京外国語大学にて実施された「負債の動態に関する比較民族誌的研究(2)」2023年度第3回研究会においてケニアからオンラインにて報告した。調査地では現金経済化が進んでいるものの、人びとは婚資に現金を用いることには強い忌避感情を抱いていることが明らかとなった。また、花嫁側親族に送られた婚資が血縁、地縁集団の中で再分配されるという特徴を持つことが明らかとなった。
以上、本年度はリプロダクションに関するフィールド調査を実施することができ、成果報告も行うことができたため、進捗状況を概ね順調に進展していると評価した。

今後の研究の推進方策

本研究では、狭義のリプロダクションとされる「性と生殖」および広義のリプロダクションとされる「家族」という2点の課題に取り組んでいる。調査はフィールドワークを重視し、これまで調査を行ってきた東アフリカ・ケニア西南部にあるマサイの集落で計5か月間程度の参与観察と聞き取り調査を行う。本課題は申請者が単独で多岐にわたる項目を調査するため、文献研究を含め4年間をかけて基礎研究に取り組むこととしている。
2年目(2023年度)には、ケニア西南部のマサイの集落に滞在し、婚資の授受と男子割礼にかんする調査を実施した。婚資の調査については3年目に実施することを検討していたが、予定外に儀礼に招かれたことで調査が実現した。婚資の儀礼の参与観察を通じて、婚資が授受される際の基本単位である親族についての基礎調査を行う必要性を感じたため、今後は親族関係の調査に取り組むことで広義のリプロダクションである「家族」のテーマを深めることができないか検討している。一方、2年目に実施を予定していた月経時の規範についての調査を十分に行うことはできなかったため、今後は月経の調査を実施する予定である。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2024 2023 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (4件)

  • [国際共同研究] アメリカ国際大学アフリカ校(ケニア)

    • 国名
      ケニア
    • 外国機関名
      アメリカ国際大学アフリカ校
  • [学会発表] 「近代化」するケニアのマサイ社会における婚姻と婚資の授受2024

    • 著者名/発表者名
      林愛美
    • 学会等名
      AA研共同利用・共同研究課題「負債の動態に関する比較民族誌的研究(2):人間経済における負債の多元性,相克, 創造性 」2023年度第3回研究会
  • [学会発表] Cross-cultural Studies: Unveiling Shared Patterns between Japanese and African Cultures2024

    • 著者名/発表者名
      HAYASHI Manami
    • 学会等名
      Public Lecture in School of Humanities and Social Sciences, United States International University-Africa, Nairobi.15th Feb. 2024
    • 招待講演
  • [学会発表] The Impacts and Challenges of the Local Eradication Project of Female Genital Mutilation/Cutting in Maasai Community, Kenya: From the Anthropological Perspective2023

    • 著者名/発表者名
      HAYASHI Manami
    • 学会等名
      International Research Seminar, Journey Towards Gender Equality in Kenya, The Embassy of Japan in Kenya, Nairobi, 4th Oct. 2023.
    • 国際学会
  • [図書] 負債と信用の人類学 : 人間経済の現在2023

    • 著者名/発表者名
      佐久間 寛(編著)、箕曲 在弘、小川 さやか、佐川 徹、松村 圭一郎、酒井 隆史、デヴィッド ・グレーバー、キース・ハート、田口陽子、林愛美
    • 総ページ数
      386
    • 出版者
      以文社
    • ISBN
      9784753103768
  • [備考] 以文社『負債と信用の人類学──人間経済の現在』

    • URL

      http://www.ibunsha.co.jp/books/978-4753103768/

  • [備考] 科研費基盤研究(A) ポスト・ヒューマン時代の〈人間経済〉:アジア・アフリカ・オセアニアからの再構築

    • URL

      https://www.debtstudies.net/

  • [備考] 「ケニアのジェンダー、法、慣習」セミナー開催のお知らせ

    • URL

      https://www.jspsnairobi.org/info/2935.html

  • [備考] researchmap「林愛美」

    • URL

      https://researchmap.jp/Hayashi.M/

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公開日: 2024-12-25  

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