研究課題
現在の地球表面は十数枚のプレートに分かれており、いずれのプレートも絶えず側方運動しており、これをプレートテクトニクスと呼ぶ。1950年代にその理論が提唱されて以降、数多の研究が為されたが未解明課題も多い。その一つがプレートテクトニクスの開始時期である。理論的予測からは地球形成直後は硬殻型対流であり、その後プレートテクトニクスに移行したと考えられている。両対流様式では地球表層-深部域の物質循環に決定的な違いがあり、プレートテクトニクスでは大量の地球表層物質がマントル深部へと運ばれる。そのため、初期地球の岩石記録から表層物質の深部輸送の痕跡を得る事ができれば、プレートテクトニクス駆動の揺るぎない物的証拠と言える。地球表層で形成される堆積岩は高い珪素同位体比を持つ。深部で形成される年代既知の深成岩及びその中の鉱物中に高い珪素同位体比を見つける事ができればプレートテクトニクスへの移行時期に制約を与えられると考えた。本研究では(1)ジルコン局所珪素同位体測定の高精度化、(2)ジルコン珪素同位体の有用性の実証、(3)初期地球ジルコンへの応用の3段階の研究を計画している。(1)については下記の進捗状況の部分でその詳細を述べる。(2)については、日本の中新世花崗岩に含まれるジルコンを使って、堆積岩が混入するにつれてジルコンの珪素同位体比がどの程度上昇していくのかをモニターすることによって有用性を議論する。今年度は鹿児島県において中新世花崗岩を採取し、ジルコンも分離し終えた。既存のものと併せ、分析すべきジルコンは揃った。(3)についても南アフリカに産する太古代花崗岩からジルコンを分離し、年代分析によってその幾つかは太古代の年代を保持している事も明らかにした。
3: やや遅れている
現状、LA-MC-ICP-MSによるジルコン局所珪素同位体測定の分析精度は± 0.2‰である。堆積物混入の検出には更なる高精度化(±0.1‰)が求められ、シグナル-バックグラウンド比(S/N比)の向上が不可欠である。主なバックグラウンドの要因は装置周辺のガラス部品(SiO2)の気化にあるといえ、全てのガラス器具をサファイア製(Al2O3)へと変更することで(S/N比)の向上に努めた。その結果、ガラス製トーチ使用時に比べてブランクは軽減されたが、依然精度・確度の高い分析値を得るには至っていない。分析に用いるジルコンの用意は進行しているものの、肝心の分析面の進展が乏しいため、やや遅れている、という進捗状況を選択した。
まずは引き続き、ジルコン局所珪素同位体測定の高精度化に努める。バックグラウンドを下げる努力だけでなく、シグナルを上昇させるためにレーザー照射条件等も最適条件を探求する。一方で、高精度な分析を行うためには50ミクロン四方程度の、それなりの大きい照射領域が必要である事が、高精度化の過程で分かってきた。既に分離したジルコンはあるものの、大きい粒子の数が充分とは言えないので、まずは既存の岩石から再度大きいジルコンを探す事を試みる。その上で、太古代ジルコンに関しては現状南アフリカ一地域のジルコンしか保有していないため、全球性を議論するためにも他のクラトンから採取した花崗岩からもジルコン分離を試みる。
サファイア製物品が海外製であり、コロナ禍もあいまって輸入して納品されるまでに時間がかかった事が最大の要因である。これにより、装置使用時間が限られてしまいバックグラウンドの低減度合いを評価するための時間さえも十分に確保できなく、その次の研究段階に進むことができなくて、次年度使用額が生じた。その使用計画としては、ジルコン分離や、母岩となる花崗岩の岩石学的記載のために必要な経費に充てる予定である。
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https://y-sawaki.jimdofree.com/